音楽と巡る写真紀行:ヴェネツィアの迷路のような路地へようこそ
ヴェネツィアに足を踏み入れると、まるで時が止まったような感覚に包まれます。石畳の道、迷路のように入り組んだ路地、静かに佇む運河、そして独特の色彩の風景が広がります。今回はそんなヴェネツィアを音楽と共に巡るお散歩ガイドをお届けします。
スタート地点は「サンタ・ルチア駅」。ここからサン・マルコ広場まで、ゆっくりと歩きながら、気まぐれに立ち止まってはカメラを構えて、その瞬間を切り取る旅。歴史ある街の空気を感じながら、あなたも一緒に「テクテク」とヴェネツィアの細道に迷い込んでみましょう。
さらに、ヴェネツィアの風景に溶け込む音楽もいくつかご紹介。静かなギターの旋律や、時にはジャズのメロディーが、この美しい水の都にぴったり。音楽と写真で心のアルバムにこの街を刻みながら、ゆったりとヴェネツィアを楽しむ旅をお楽しみください。
今回歩いたコース:サンタ・ルチア駅→サン・マルコ広場
ここからは、ヴェネツィアの旅に欠かせない音楽のご紹介。まずは、この街の空気に溶け込むヴィヴァルディの音楽です。
ヴィヴァルディの音色で彩られるヴェネツィア
ヴェネツィアといえば、真っ先に思い浮かぶのがヴィヴァルディのヴァイオリンの響き。彼の『四季』は、この街の移り変わる季節や刻々と表情を変える水辺の景色にぴったりです。運河を歩いていると、ヴィヴァルディのコンサートのポスターが目に入ります。実は、ヴィヴァルディはこの街が生んだ音楽家。生涯を通じてヴェネツィアの文化を音楽で彩ってきました。
夜のコンサートホールでヴィヴァルディの音楽に耳を傾けると、路地を渡る風や水面を揺らす波の音と相まって、まるで時間を超えて彼の時代に迷い込んだような気分に。彼の音楽を聴きながら歩くことで、ヴェネツィアがまた違った一面を見せてくれるかもしれません。
まずはカラヤンの名演を。
僕は中世の雰囲気が色濃く残る街が好きで、そんな場所に行くと、自然と歩き回りたくなります。ヴェネツィアもそのひとつ。
中世の街の一番の魅力は、やはり「路地」。ヴェネツィア本島には車もバイクも入れないため、どこを歩いても静けさが漂っています。この「静けさ」は、現代の都市ではほとんど体験できない特別なもの。耳をすませば、足音や小さな波の音が響き、まるで時間がゆっくりと流れているような感覚に。
さて、今回の散策のスタート地点は、現代ヴェネツィアの陸の玄関「サンタ・ルチア駅」。ここから、かつて中世の時代にはヴェネツィアの象徴的な表玄関だった「サン・マルコ広場」を目指して、迷路のように入り組んだ路地を歩きましょう。
ヴェネツィアの路地はまるでクネクネと曲がる迷宮のよう。しかし、ところどころに標識があるため、大まかな目的地を決めておけば、地図に頼らずとも自然と辿り着けるのが面白いところです。迷うことすら楽しみのひとつ。どの角を曲がれば新たな風景が広がり、どの小路に入れば運河が顔を覗かせるのか、歩くたびに期待が膨らみます。
ヴェネツィアの路地は東京の地下鉄に似ていますね。東京の地下鉄も、一見すると迷路のようですが、標識に従って歩くだけで行きたい場所に辿り着ける点がとても便利です。とくに目的地が明確であれば、迷うことなく移動できるのは嬉しいところです。
ヴェネツィアでも同じで、大きなランドマーク、たとえばサン・マルコ広場のような場所に向かう場合は、路地に設置された標識が頼りになります。この標識を目印にしながら歩けば、迷うことなく観光名所に行けるのは、初めて訪れる人にとっても安心です。
もちろん、細かな場所、たとえばホテルやレストランに行く場合は地図やGoogle Mapが役立ちますが、ヴェネツィアの魅力はその「迷路感」にもあるので、あえて地図を閉じて歩いてみるのもおすすめです。
標識を頼りに、時折行き止まりに出会いながらも、ゆっくりとサン・マルコ広場を目指すその過程が、きっと特別な記憶になるでしょう。
ヴェネツィアはまさに水の迷宮。街全体に張り巡らされた運河の数は150以上もあり、170を超える小さな島々に分かれています。さらに、それらの島々をつなぐ橋はなんと400近く。路地を歩きながらも、いくつもの橋を渡り、運河と陸地が絶妙に絡み合う景色が楽しめます。
興味深いのは、ヴェネツィアの建物の“正面玄関”が、運河に面しているという点です。この街では、陸側ではなく水上こそが建物の表玄関。今でも、古くからのホテルや家屋には運河から直接入れる入り口が残り、まるで運河が玄関前の道のようです。だからこそ、家やホテルの前には、所有者が使う小型の船やボートがしっかりと停められていることが多いのです。
この水上生活の独特な様式は、まるで運河自体がこの街の“通り”であり、ボートが“車”のような役割を果たしているように感じられます。ヴェネツィアを歩いていると、そんな不思議な光景に自然と引き込まれ、この街がいかに水と共に生きているかが、まざまざと伝わってきます。
路地を歩いていると、ふと前方に仲睦まじく歩く夫婦の姿が目に留まりました。長年連れ添ってきたのかもしれない、その二人の間には、時間を重ねて築かれた絆や歴史が自然と漂っています。まるで何気ない日常の一瞬が、ヴェネツィアという壮大な舞台の上で輝きを放つ瞬間に変わるかのようでした。
人生とは、まさに一つの劇のようです。そしてヴェネツィアの街は、その劇の背景としてこれ以上ないほどに完璧な空間です。風情ある石畳や運河のきらめき、古い建物が立ち並ぶ中、二人はその主人公となって静かに歩みを進める。まるで物語が進むごとに舞台装置が変わり、ひとつひとつのシーンが丁寧に演出されているかのようです。
こんな街だからこそ、さりげない一瞬がロマンチックでドラマチックなものに見える。ヴェネツィアには、歩くだけで人生のドラマを感じさせる、不思議で美しい魔法があるのかもしれません。
ヴェネツィアの散策中に必ず出会うのが、街の中心を堂々と貫く「大運河」。その幅広い流れにかかる橋の中でも、特に有名なのが「リアルト橋」です。この大運河にはいくつかの大きな橋がかかっていて、リアルト橋以外にも、アカデミア橋やスカルツィ橋などが訪れる人を迎えます。
リアルト橋はヴェネツィアで最も古い石造りの橋で、アーチ型の優雅な造りが特徴的です。橋の上には小さな店が並び、観光客で賑わいながらも、どこか落ち着いた佇まいを保っています。橋の上から眺める大運河は、運河沿いに並ぶ歴史的な建物の美しさと相まって、まるで生きた絵画のよう。行き交うボートや水上タクシーの音が、まるでヴェネツィアの街が鼓動しているかのように聞こえてきます。
ヴェネツィアの旅のひとつのハイライトであるこの大運河を渡ることで、街の景色が一変し、また違うヴェネツィアの顔に出会える。それがこの街を歩く楽しみでもあります。
劇空間のような演出効果をねらった都市空間作り:サン・マルコ広場
迷路のような路地を抜けて、やがて辿り着くのが、世界一美しい広場とも称される「サン・マルコ広場」。ここはナポレオンがその美しさを絶賛した通り、まさに傑作です。広場を囲む壮大な建物群と、美しい大理石の床が織りなす景観は、見る者すべてを圧倒します。
ヨーロッパの都市には、景観を重視した歴史的な文化が根付いており、その象徴が都市計画に表れています。たとえば、パリは19世紀に万国博覧会を控え、美しい街並みを見せるために大規模な再整備が行われました。この再整備によって、今のパリのエレガントな通りや広場が形作られ、世界中から訪れる人々を魅了しています。
ウィーンもまた、旧市街を囲む壁を取り壊し、新たに「リング通り」を敷設しました。この通りには、美術館や名建築が立ち並び、街の中心が芸術と文化の宝庫へと変わったのです。
では、1000年の歴史を誇るヴェネツィア共和国は、どんな街や建物を作り上げたのでしょうか。運河と橋、歴史的な宮殿や教会が織りなす景観は、ヴェネツィアの誇りそのものであり、街そのものが一つの美術品と言えるでしょう。街の設計には、海上交易で栄えたヴェネツィアの繁栄と、異文化交流の歴史が色濃く反映されています。建物一つ一つに物語があり、それぞれがヴェネツィア独自の美学を表現しています。
海からの玄関口であるサン・マルコ広場周辺は、その美しさが計算されたものです。特に海上から見る「ドゥカーレ宮殿」は、まるで海に浮かぶケーキのような幻想的な演出を見せ、訪れる者を魅了します。また、サン・マルコ広場自体の形は、まるで大きな舞台のように設計されており、その広さと対称的な構造が、まるで一つの劇の開幕を予感させるような迫力を感じさせます。
広場に立つと、まるで自分がその舞台の一部であるかのような錯覚に陥ることでしょう。周囲に広がる壮麗な建物群や鐘楼、そして行き交う人々の姿が、まるで劇場の幕が上がる瞬間のように、観客を引き込んでいきます。
ヴェネツィアの魅力は、このように広場だけに留まりません。迷路のような路地裏もまた、まるで小さな劇場のような空間を作り出しています。歩くたびに新たなドラマが始まり、毎回異なるストーリーが繰り広げられているかのようです。サン・マルコ広場と路地裏、それぞれの空間が、ヴェネツィアという街全体を一つの壮大な舞台にしているように感じられます。
ヴェネツィアの旅にオススメのプレイリスト
ヴェネツィアに合うミュージックをセレクトしました。どのアルバムの音楽も雰囲気があってとてもいいです。ちょっとノスタルジックであったり、哀愁のあるギターの音色だったりが、ヴェネツィアでの旅情を引き立てます。
イギリスのミュージシャンであるニック・パーマーによる音楽プロジェクトであるダイレクターサウンド。ギターやピアノはもちろん、アコーディオン、バンジョー、ウクレレ、ツィター、オートハープ、ブズーキ、パーカッションなどを演奏するマルチなミュージシャン。彼の奏でる柔らかくも、リラックスした雰囲気は、海外へ想いを馳せる時にピッタリ。
カルロス・ジョビンはブラジルの音楽家ですが、彼の音楽はちょっと懐かしい雰囲気もあり、それがとても心地いいです。ゆったりとした空気の流れるヴェネツィアにマッチするはず。オススメはStone Flower.
ミロシュのクラシックギターの音色は、とても情熱的でラテンな感じがとてもいい。クラシックギターの音色は、地中海文化にとても合っていると思います。オススメはLatino Gold。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi
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