旅する美術史:シェイクスピアの故郷ストラトフォード=アポン=エイヴォンを歩く 文学と演劇、英国地方の美しい町
はじめに
イギリス文学の巨星ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の足跡をたどる旅へようこそ。
今回ご紹介するのは、彼が生まれ育った町ストラトフォード=アポン=エイヴォンです。
この美しい地方都市は、文学ファンだけでなく、イギリスの地方の魅力を味わいたい人にもぴったりの場所です。
歴史ある建物、エイヴォン川の穏やかな流れ、そして今も続く演劇文化。
この町を歩いていると、シェイクスピアという一人の劇作家が、単なる教科書の中の名前ではなく、土地と結びついた存在として立ち上がってきます。
ストラトフォード=アポン=エイヴォンは、ロンドンのような大都市とは違う魅力を持っています。
ここには中世から続く町並みが残り、文学、建築、演劇がひとつの風景の中に自然に溶け合っています。
シェイクスピアを読む旅でありながら、同時に英国文化そのものを味わう旅にもなる。
それがこの町の面白さです。
ストラトフォード=アポン=エイヴォン
シェイクスピアを読むということ
僕がシェイクスピアに興味を持ったきっかけは、意外にも映画でした。
『レインマン』(1988年)の中で、トム・クルーズ演じる弟が兄に「シェイクスピアも読んだのか?」と問いかける、ごく短い場面があります。
それを見たとき、「そういえばシェイクスピアってどんな作家なんだろう」と思ったのが始まりでした。
いざ読んでみると、シェイクスピアは予想以上に面白い。
『ハムレット』『マクベス』『ロミオとジュリエット』といった代表作は、今なお世界文学の中心にあるといってよい作品です。
難しそうに見えても、物語の力が強く、人物の感情も劇的で、意外なほど引き込まれます。
悲劇であれ喜劇であれ、舞台の上で人間が極限までむき出しになる感じがある。
だから、時代が違っても読み継がれているのでしょう。
ストラトフォード=アポン=エイヴォンを歩くと、そうした作品を生み出した人間が、もともとはこの地方の町で育ったのだという事実に、あらためて驚かされます。
世界文学の頂点に立つ作家も、最初はこの川辺の町の少年だった。
そのことを思うだけで、この場所の見え方が少し変わってきます。
シェイクスピアとアート
シェイクスピアの影響は、文学の枠にとどまりません。
イギリス美術を見ても、彼の戯曲は繰り返し絵画の題材となってきました。
とりわけ19世紀のラファエル前派は、シェイクスピアの劇的な場面や人物に強く惹かれ、その世界を細密で感情豊かな絵画へと置き換えています。
文学と絵画が深く結びついているところに、シェイクスピアの面白さがあります。
彼の言葉は舞台の上で終わるのではなく、絵画の中で別の生命を持ち始める。
その意味で、シェイクスピアはイギリス文学の巨星であると同時に、イギリス美術の重要な源泉でもあるのです。

たとえばジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》は、『ハムレット』の印象的な一場面をもとにしています。
水面に横たわるオフィーリアの姿は美しくも不穏で、文学の悲劇性が絵画として見事に定着した例でしょう。
シェイクスピアを読むことは、こうした絵画の背景を理解することにもつながっていきます。



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