鉄道と物語の旅|列車ミステリー、駅の情景、映画に残る旅情

『ミッション・インポッシブル』とリバプール・ストリート駅

映画の中でも、駅や列車は印象的に使われている。

トム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』第1作にも、ロンドンの駅と列車が登場する。

後半のTGVを使ったアクションは、いかにも映画的な迫力があり、列車という乗り物のスピード感をうまく活かしている。

個人的に印象に残っているのは、ロンドンのリバプール・ストリート駅である。

イーサン・ハントが公衆電話をかける場面で登場する駅だ。

大きなターミナル駅の空間が、スパイ映画らしい緊張感を引き立てている。

駅は人が多い。

誰かを見失うこともできるし、誰かに見張られているようにも感じる。

その匿名性と緊張感が、スパイ映画にはよく合う。

ロンドンのリバプール・ストリート駅
ロンドンにある大きなターミナル駅のひとつ、リバプール・ストリート駅。Photo by HASEGAWA, Koichi

リバプール・ストリート駅からは、ケンブリッジ、ノリッジ、コルチェスター方面への列車が出ている。

スタンステッド空港へ向かう列車もここから発車する。

もし旅の途中でこの駅を使うことがあれば、映画の場面を思い出しながら歩いてみるのも楽しい。

キングス・クロス駅とハリー・ポッター

ロンドンの駅で物語と結びつきが強い場所といえば、キングス・クロス駅も忘れられない。

ハリー・ポッターシリーズでは、この駅からホグワーツ魔法魔術学校へ向かう列車が出発する。

9と4分の3番線。

赤い蒸気機関車。

大きな荷物を持った子どもたち。

駅が、日常から魔法の世界へ入る入口になる。

この設定がとてもいい。

駅という場所は、もともと日常と非日常の境界にある。

そこからさらに魔法の世界へ向かうという発想は、鉄道の持つ旅情を見事に活かしている。

ロンドン・キングス・クロス駅
ロンドン・キングス・クロス駅。ハリー・ポッターで登場する。Photo by HASEGAWA, Koichi

列車内サスペンスの魅力

列車を舞台にしたサスペンスには、特有の面白さがある。

列車は動いている。

しかし乗客は、簡単には外へ出られない。

この矛盾が、物語に緊張感を生む。

目的地へ向かって進んでいるのに、車内では逃げ場がない。

見知らぬ乗客たちの中に、犯人がいるかもしれない。

次の駅までに何かが起こるかもしれない。

線路の上を進む時間には、サスペンスと相性のいいリズムがある。

だから鉄道ミステリーや列車サスペンスは、時代を超えて魅力を保ち続けているのだろう。

『カナディアン・エキスプレス』|ロッキー山脈を走るサスペンス

列車サスペンス映画として印象に残る作品に、『カナディアン・エキスプレス』がある。

ロッキー山脈を走る列車を舞台にしたサスペンス映画で、ジーン・ハックマンの存在感も印象的である。

この作品の魅力は、列車内の緊張感だけではない。

カナダの雄大な自然、山間の駅、雪や森の風景が、物語に大きな広がりを与えている。

閉ざされた車内と、窓の外に広がる大自然。

その対比が、鉄道映画らしい魅力を生んでいる。

いつかカナダのロッキー山脈を走る列車に乗ってみたい。

映画を観ていると、そんな旅の憧れも湧いてくる。

『トレイン・ミッション』|通勤列車が非日常へ変わる

リーアム・ニーソン主演の『トレイン・ミッション』も、列車を舞台にしたサスペンスとして楽しめる作品である。

舞台は、ニューヨーク近郊を走る通勤列車。

毎日乗っているはずの列車が、ある日突然、危険な非日常の舞台へ変わる。

この設定が面白い。

豪華列車でも、国際列車でもなく、日常の通勤列車である。

だからこそ、自分の生活にも少し近く感じられる。

いつもの車両、いつもの乗客、いつもの帰り道。

そこに謎が入り込んだ瞬間、見慣れた空間がサスペンスの舞台へ変わる。

列車という場所の面白さは、こうした日常と非日常の切り替わりにもある。

松本清張『点と線』|日本の鉄道ミステリー

日本の鉄道ミステリーを語るなら、松本清張の『点と線』は欠かせない。

1950年代の日本社会と鉄道網を背景に、緻密な推理が展開される代表作である。

『点と線』の魅力は、鉄道ダイヤや移動の時間が、謎解きの核心に関わってくるところにある。

列車は、ただの移動手段ではない。

時刻表、乗り換え、停車時間、駅と駅の距離。

そうしたものが、事件の構造そのものになっている。

これは、日本の鉄道文化とミステリーが結びついた非常に面白い例だと思う。

鉄道が正確に動くからこそ成立する謎。

その緻密さが、『点と線』を特別な作品にしている。

007に登場する列車の旅

007シリーズにも、列車は印象的に登場する。

列車の上でのアクションもあるが、ここでは特に列車内の場面に注目したい。

ボンド映画に登場する列車には、旅の優雅さと危険が同居している。

食堂車、個室、スーツ、ドレス、ワイン、会話、そして突然のアクション。

列車は、ボンドの世界にとてもよく似合う。

『ロシアより愛をこめて』の列車シーン

ショーン・コネリーがボンドを演じた『ロシアより愛をこめて』には、列車内の名場面がある。

イスタンブールからヨーロッパへ向かう列車の旅。

個室、廊下、食堂車。

クラシックな国際列車の雰囲気が、映画全体に緊張感と旅情を与えている。

豪華列車というと華やかな印象があるが、この映画の列車には、もう少し古い時代の国際列車らしい重さがある。

移動しているはずなのに、逃げ場がない。

食事をしながらも、相手の本心を探り合う。

列車内の空間が、スパイ映画らしい心理戦の舞台になっている。

ダニエル・クレイグ版ボンドの食堂車

ダニエル・クレイグ版の007でも、列車は印象的に使われている。

『カジノ・ロワイヤル』では、ボンドがモンテネグロへ向かう列車の中で、ヴェスパーと出会う。

この食堂車の場面は、とてもいい。

列車の中で向かい合い、会話を交わし、相手を探る。

移動中でありながら、二人の関係が大きく動き出す場面である。

『スペクター』にも、列車での食堂車シーンがある。

スーツを着たボンドと、ドレスアップした女性が、列車内のレストランで食事をする。

現実の旅ではなかなか味わえないほど洗練された光景だが、だからこそ映画として魅力的である。

列車の食堂車には、移動と食事、旅と会話が重なる独特の美しさがある。

鉄道と物語の記憶

鉄道は、ただ人を運ぶだけではない。

物語を運ぶ。

駅には、出会いと別れがある。

列車には、密室の緊張感がある。

車窓には、旅の時間が流れている。

だから、小説家や映画監督は、何度も鉄道を物語の舞台にしてきたのだろう。

アガサ・クリスティーの密室ミステリー。

ロンドンの駅の旅情。

ハリー・ポッターの魔法の出発点。

列車内サスペンスの緊張感。

007の食堂車の優雅さ。

それぞれの作品の中で、鉄道は違う表情を見せてくれる。

旅先で駅に立ったとき、あるいは列車に乗ったとき、ふと映画や小説の場面を思い出すことがある。

その瞬間、現実の旅と物語の旅が少し重なる。

鉄道の魅力は、きっとそこにもある。

次に駅のホームに立つとき、列車の窓から外を眺めるとき、どこかで読んだ物語や観た映画の記憶が、そっとよみがえるかもしれない。

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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