アントニオ・ガウディの傑作建築『カサ・バトリョ』:曲線と破砕タイルの創り出す美しさ

今回はガウディの建築『カサ・バトリョ』を取り上げる。

『カサ・バトリョ』は、バルセロナにあるガウディ傑作建築群のひとつに数えられる建物で、バルセロナにおける重要な芸術作品でもあり世界遺産にも数えられる。

『カサ・バトリョ』

ガウディが『カサ・バトリョ』で表現したものとは・・?

バルセロナの目抜き通りであるグラシア通りにある美しくも風変わりな建物。天才アントニオ・ガウディ(1852-1926)カサ・バトリョ(1904-06)だ。 バルセロナに行ったら、グラシア通りにあるカサ・バトリョとカサ・ミラを両方見てみよう。

特徴のある屋根は何を表現している?

カサ・バトリョの屋根は何を表現しているのかは種々説がある。

カタルーニャの守護聖人とドラゴン説

これは伝説に出てくるドラゴン退治を表現しているという説。なるほど、鮮やかな鱗のように見えるので、ドラゴンを連想させるのもうなずく。

ここで、カタルーニャの守護聖人サン・ジョルディ(ゲオルギオス、あるいはジョルジオ)を紹介しなくてはならない。

13世紀イタリアの年代記者でもあり大司教であったヤコブス・デ・ウォラギネは、その著書『黄金伝説』に聖人や殉教者の話が綴った。これは聖書に並ぶほど読まれ、文化にも大きく影響を与えたとされる。この中に登場するサン・ジョルディは、その伝説によるとカッパドキア周辺(現在のトルコ)の出で、ドラゴンの伝説で有名だ。

屋根の文様は確かにドラゴンのウロコを連想させる

伝説によると、生贄としてさらわれた王女が、今まさに恐ろしいドラゴンに襲われんとする時に、白馬に乗った騎士であるジョルディが駆けつけた。ドラゴンは毒を吐く時に、その喉元にジョルディの放った槍が突き刺ささり、王女を助けることが出来たという話だ。

この時、ドラゴンから流れ落ちた血がバラの花になり、それを王女に贈ったという言い伝えがあるため、サン・ジョルディの殉教の4月には、カタルーニャでは男性が女性にバラを贈る習慣があるそう。

ヨーロッパにはこのサン・ジョルディをはじめ沢山の聖人や殉教者がいて、街や職業の守護聖人として祀っている。カタルーニャ地方ではこのサン・ジョルディが守護聖人だ。

なるほど、『カサ・バトリョ』の屋根は、鮮やかなウロコのように見えるので、ドラゴンを連想させるのもうなずく。

※「黄金伝説」はヨーロッパの歴史文化を理解する上でも大事な本。日本語では1巻から4巻まで。

created by Rinker
¥3,240 (2024/03/27 23:00:16時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥2,090 (2024/03/27 23:00:16時点 Amazon調べ-詳細)

屋根は帽子を表現しているという説。柱は「骨の家」

屋根が喜劇に出てくるアルルカンの帽子に似ていると言う説もある。また面白いのが、柱が骨に似ているところから、地元の人には「骨の家」と呼ばれていた時期もあった。

骨のような柱が面白い

曲線とトレンカディスの表現する海の世界

これまで『カサ・バトリョ』の屋根部分や柱などを見てきたが、何といってもこの壁面のイメージからは海を想起する。波打つ曲線と貝殻のような文様は海の世界ではないか。

僕にはグラシア通りに「海が現れた!」というのが、第一印象で、それは今も変わらない。

この海の表現を可能にした曲線的な構造トレンカディス

建築物に曲線が創り出す美

ガウディは、自然界には曲線しかないという信念で建物をデザインしていった。なるほど、この建物にも曲線が多用されている。この曲線的な特徴は、ガウディ建築の大きな特徴であり、彼のデザインした他の建物にも見出されるものだ。

『カサ・バトリョ』の近くにある有名な『カサ・ミラ』(1906-10)もまた、その曲線美が有名な建築だ。この建築は、地中海の波をモチーフにデザインされたと言われる。ここでもやはり曲線の持つ美しさと海がテーマとなっているのが興味深い。

しかし、この曲線、直線や幾何学を駆使し作り上げられたもの。双曲線面や放物線面を応用したものだ。この技術は、サグラダファミリアに結晶される。

※ 曲線的な形状と色彩はモデルニスモ運動とも大きく関係する。モデルニスモはパリのアール・ヌーヴォー運動の考え方とも似ている。参考にアール・ヌーヴォーについて書いたものも載せておく。

カサ・ミラも合わせて見学したい

トレンカディス(破砕タイル)で表現する海

トレンカディスとは、破砕タイルのことで、壊れた破片を使ったタイルモザイクとでも言うとわかりやすい。古くからカタルーニャ地方で用いられたテクニックで、ガウディもまた多用した。

トレンカディスのテクニックにより海が表現されている

壊したタイルをはじめ、ガラスの破片も使った建物の表面は、珊瑚を思い起こさせるデザインが施されている。

この見事な色彩感覚は、弟子のジュゼップ・マリア・ジュジョールの手によると言われる。彼の才能に惚れ込んだガウディは、この『カサ・バトリョ』で初めて共同作業にかかる。グエル公園もまたこの師弟の共作として有名だ。その曲線的な構造とトレンカディスの創り出す美しさは、ジュジョールの仕事が大きいと言われる。弟子の力が師匠の仕事を更に見事な完成作まで持っていく。素晴らしい2人の協力作業だ。

グエル公園もまた曲線と色彩の共演だ

※アートミステリーの傑作漫画「ゼロ」この中にガウディとジュジョールの話も出てくる。漫画なので読みやすく面白い。オススメ。

カメラを持って鮮やかなカサ・バトリョを撮りに行きたい

ガウディのオススメ本

  • 「ガウディ完全ガイド」→オススメのガウディ本。設計図や家具、そしてガウディの人生なども網羅。読んでいて楽しい。
created by Rinker
¥3,080 (2024/03/28 22:18:49時点 Amazon調べ-詳細)

Photo and Writing by HASEGAWA, Koichi