カルーゼル凱旋門と都市の軸線
チュイルリー公園の東側には、カルーゼル凱旋門がある。
ナポレオンの勝利を記念して建てられたこの門は、ルーヴルとチュイルリーの空間をつなぐ重要な存在である。

この門の先には、コンコルド広場、シャンゼリゼ通り、エトワール凱旋門、さらにラ・デファンスへと続く大きな都市軸がある。
ここで重要なのは、庭園が都市の中で孤立していないことである。
チュイルリー公園は、ルーヴル美術館の西側に広がる庭園であると同時に、パリの壮大な視線の軸の一部でもある。
フランス式庭園の軸線と、パリの都市軸。
その二つが重なっていることが、チュイルリー公園の面白さである。
庭園の中を歩くことは、都市の大きな構成の中を歩くことでもある。
失われたチュイルリー宮殿
現在、チュイルリー公園には宮殿は残っていない。
しかし、かつてこの場所にはチュイルリー宮殿があった。
チュイルリー宮殿は、16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスによって建設が始められた。
その後、長い時間をかけて整備され、王権と深く結びつく宮殿となった。
ルイ14世の時代には庭園とともに整えられたが、王の居城はやがてヴェルサイユへ移る。
それでも、フランス革命の時期には王室が再びチュイルリーへ戻り、革命の激動の舞台にもなった。
さらにナポレオンやナポレオン3世の時代にも、この宮殿は政治権力の中心のひとつとして使われた。
しかし1871年、パリ・コミューンの際に焼失し、現在はその姿を見ることができない。
チュイルリー公園を歩くとき、この失われた宮殿のことを思うと、風景の見え方が少し変わる。
今は開かれた庭園として人々が散歩している場所に、かつて巨大な宮殿が建っていた。
王権、革命、帝政、焼失。
その歴史が、目に見えない形でこの場所に残っている。
パリの面白さは、現存する建物だけでなく、失われた建築の記憶も都市の中に残っていることだと思う。
チュイルリー公園は、その代表的な場所のひとつである。
オランジュリー美術館とモネの《睡蓮》
チュイルリー公園の一角には、オランジュリー美術館がある。
モネの《睡蓮》の大装飾で知られる場所である。

オランジュリーという名前は、もともと柑橘類の木を冬の寒さから守るための建物に由来する。
現在では美術館として知られているが、もともとは庭園の機能と結びついた建物だった。
この建物が、のちにモネの《睡蓮》を収める場所になる。
その流れはとても興味深い。
庭園のための建物が、庭の池を描いた近代絵画のための空間になる。
モネはジヴェルニーの庭で睡蓮を繰り返し描いた。
水面、光、反射、時間の移ろい。
彼の《睡蓮》は、自然を幾何学的に支配するフランス式庭園とはまったく違う自然の見方を示している。
チュイルリー公園の中に、ル・ノートル的な秩序の庭園があり、その一角にモネの《睡蓮》がある。
ここには、フランスの自然観の大きな変化が見える。
一方では、自然を王権と理性のもとに整えるフランス式庭園。
もう一方では、自然の光と水面の揺らぎを見つめる印象派の絵画。
チュイルリー公園からオランジュリー美術館へ向かう散歩は、その二つをつなぐ美術史の道でもある。
庭園から美術史を見る
美術史というと、絵画や彫刻、建築を思い浮かべることが多い。
しかし庭園もまた、重要な美術史の対象である。
庭園には、自然をどう見るかという考え方が表れる。
自然を支配し、秩序づけるのか。
自然のように見せながら人工的に構成するのか。
自然の光や変化をそのまま受け止めるのか。
チュイルリー公園には、そうした問いが詰まっている。
ル・ノートルのフランス式庭園。
失われたチュイルリー宮殿。
ナポレオンの凱旋門。
オランジュリー美術館。
モネの《睡蓮》。
それぞれは別々のものに見える。
けれども、実際に歩いてみると、ひとつの場所の中でつながっている。
パリの中心で庭園を歩くことは、自然と都市、王権と市民、古典的秩序と近代絵画をつなぐ時間を歩くことでもある。
ルーヴルで作品を見たあと、チュイルリー公園を歩き、オランジュリーでモネの《睡蓮》に浸る。
その一連の流れは、パリで味わえるとても豊かな美術史散歩である。
チュイルリー公園を歩いて
チュイルリー公園は、何気なく通り過ぎることもできる場所である。
ルーヴルからコンコルド広場へ向かう途中の、広い公園。
ベンチに座る人、散歩する人、写真を撮る人、子ども連れの家族。
日常のパリが流れている。
けれども、少しだけ視点を変えると、この公園は美術史の入口になる。
まっすぐな道を見る。
左右対称の構成を感じる。
彫刻や噴水の位置を確かめる。
失われた宮殿を想像する。
オランジュリーの《睡蓮》へ向かう。
そうすると、チュイルリー公園はただの散歩道ではなくなる。
パリという都市が、自然と権力と芸術をどのように結びつけてきたのかを教えてくれる場所になる。
パリを旅するなら、美術館の中だけでなく、ぜひ庭園も歩いてみたい。
そこには、建物や絵画とは別のかたちで、美術史が息づいている。
チュイルリー公園の木々の列と、空に開かれた軸線。
その風景の中に、フランス式庭園の美しさと、パリの長い時間が静かに重なっている。








エッフェル塔が写っている写真についてご教示頂きたいことがございます。既に亡くなっていましが、私の叔父である、進藤蕃の作品に「チュイルリー公園の門」が有ります。公園のどこから見た風景か調べていましたが分かりませんでした。貴方さまのお写真が当てはまるような気がしてお便りしました。お手数でございますがご教示頂きたくお願い申し上げます。
叔父
https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10667.html
作品
https://auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/f1194429151
コメントありがとうございます。拝見した作品の門ですが、おそらく公園のシャンゼリゼ側で、コンコルド広場のオベリスクを正面に見た付近かと思われます。
間違っていたらすみません。