夜の散歩シリーズ:成田空港夜散歩 第1ターミナル展望デッキと旅立ち前の静けさ

成田空港の夜を楽しむ

成田へ向かう手段はいろいろある。
成田エクスプレス、京成スカイライナー、リムジンバス。
どれで着くにしても、夕方の空港にはまだ旅人たちの流れが残っている。
到着便から出てくる人々、これから出発する人々、チェックインカウンターの光。
そのにぎわいを横目に見ながら、まずはぶらぶらと歩いてみる。

空港の中を歩いていると、店を見たり、夕食を取ったり、それだけでも気分が少しずつ旅の方へ向いていく。
そして夜が深まるにつれて、出発便は次々に飛び立ち、ロビーの人影もだんだん薄くなっていく。
カウンターのスタッフも業務を終え、空港は少しずつ夜の表情へと移っていく。

この時間の第1ターミナルはいい。
まだ完全に眠りについてはいない。
けれど昼間の機能的な顔はすでに後ろへ退き、建物の中に旅情だけが静かに残っている。
これから始まる旅に思いを馳せたり、日本で過ごした時間を思い返したりするには、ちょうどいい静けさがある。

夜の展望デッキにて

時間があれば、展望デッキへも出てみたい。
空港の夜を感じるには、やはり外の空気に触れるのがいちばんだと思う。

夜の展望デッキ。

夕食を終えてデッキに出るころには、外はすっかり暗くなっている。
まだ出発前の機体がとまっていることもあるけれど、多くの便はすでに飛び立ち、搭乗ゲートも静かに朝を待っている。
その光景を見ていると、空港全体がゆっくりと眠りへ向かっているのがわかる。

滑走路には無数の灯りが散り、遠くには誘導路の線が伸びている。
その光のあいだを、離着陸する飛行機が静かに行き交う。
空港の夜景は都会の夜景とは違う。
そこには装飾のための光ではなく、旅と移動のための光がある。
だからこそ、見ていて飽きないし、どこか遠い場所への想像を自然とかき立てられる。

しばらくぼんやりと滑走路を眺めていると、夜の空港には独特の時間が流れていることに気づく。
慌ただしさは消えているのに、完全な静止ではない。
世界のどこかへ向かう飛行機がまだ動いていて、ここが今も遠い国々とつながっていることを感じさせる。

やがてゲート付近の照明も落ち、空港も眠りにつく。

『ジェットストリーム』の感じ

遠い異国へ思いを巡らせるには、夜の空港という場所は本当によく似合う。
僕が夜の空港に惹かれる理由のひとつには、きっとラジオ番組『ジェットストリーム』の記憶もあるのだと思う。

多感だったころ、あの番組が醸し出す夜間飛行の雰囲気に、何度も心を奪われた。
まだ見ぬ外国の街、遠い空港、知らない言語、夜の機内の静けさ。
そうしたものへの憧れが、あの時間の中には詰まっていた。

大人になった今でも、旅情に浸るのが好きだ。
そして旅先でも、とりわけ夜という時間に強く惹かれる。
夜の空港もそのひとつだ。
深夜のラジオがつくっていた異国への憧れが、今もどこかで僕の中に残っているのかもしれない。

夜の成田空港を歩いていると、ときどきあの番組の雰囲気を思い出す。
遠くへ向かう飛行機。
静まり返ったロビー。
眠りにつくゲート。
そして、これから始まる旅への淡い高揚。
空港の夜には、現実でありながら、どこか夢の入口のような空気がある。

成田空港第1ターミナルの夜は、まさにそんな場所だ。
派手ではない。
でも、だからこそ旅立ち前の心によく寄り添う。
これから遠くへ向かう人にも、日本から帰る人にも、この静かな時間はきっと忘れがたいものになるだろう。

また別の夜にも、こうして空港を歩いてみたい。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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