マッターホルン「魔の北壁」と登山家「小西正継」

はじめに

今回紹介するのはスイスの名峰マッターホルン。

「人間の能力の限界を極める」。あらゆるスポーツ競技は、常にその限界へ挑んでいる。

ひとことに「身体を極める」といっても、やみくもに身体をいじめ抜いたり、丈夫な身体をつくるために暴飲暴食というわけにはいかない。人類の蓄積したあらゆる経験知識、科学や医学、栄養学、心理学などを総動員してその限界を突破していく。

そんな人間能力の限界突破という点で、僕が魅了されている事のひとつが登山

今回紹介するのは、日本人で初めて厳冬のマッターホルン(4478 m) に挑んだ登山家の小西正継と名峰マッターホルン

スイスへ旅をする機会があれば、彼の登山記を読んでから、マッターホルンを眺めてみることをオススメします。凄いですよ。

マッターホルン北壁 日本人冬期初登攀 (ヤマケイ文庫)

下手な啓発本より登山家によるエッセイが凄い

書店に行くと啓発本が溢れているが、僕は登山家が書いた登山記や冒険記のほうが物凄くモチベーションを上げてくれるし、人智に富んでいると思っている。

「これから何かやってやろう」と思っている人に、オススメする本のジャンルかもしれない。

「厳冬のマッターホルン北壁を登るには、勇気と強靱な体力、鉄の意志、そして自分自身が絶対に登れるんだという強い信念を持つこと、すなわち精神で大北壁を圧倒することが必要であった。」

—『マッターホルン北壁 日本人冬期初登攀 (ヤマケイ文庫)』小西 政継著

ツェルマットから山に入っていくとマッターホルンが迫ってくる。



3大北壁の一つであるマッターホルン北壁

見た目は美しいマッターホルンだが、いざ登るとなるとどうであろうか。

特に北側の壁は高度差1200メートルの岩壁である。小西さんはこの大岩壁をに登ろうと決意する。しかも、北壁は昼間でも太陽が当たらない大氷壁。まさに死と隣り合わせの氷と厳寒の世界。

彼が北壁に挑む前夜の記述が印象に残る。精一杯準備してきた小西さんも死の恐怖と闘う。

大病を克服し山に登る訓練を重ね、アルプスの難関に挑めるまでトレーニングを積んできた小西さんも登る前は己の己心と闘う。

「アルピニストというものは、自分自身の心の中にある弱さ、感情の弱さを克服しなければならないものなのであろう。冬の北壁の勝利をわが手に握りしめたいのなら、まず最初に自分の心に打ち勝たねばならないのである。」

—『マッターホルン北壁 日本人冬期初登攀 (ヤマケイ文庫)』小西 政継著

ツェルマットから見るマッターホルンの威容

はるばる登山鉄道を使ってツェルマットに着くと、駅を少し歩くだけでマッターホルンが現れる。
スイス・アルプスを代表する名峰だ。ツェルマットには、この名峰を近くで仰ごうと、世界中から観光客や登山家が訪れる。

ツェルマットからはどこからでもマッターホルンが見える。

小西さんの本にも記載されているが、ツェルマットの麓から、登山者やアイスクライマーのアタックが見えるそうだ。

アタック中の登山家パーティの様子をツェルマットから双眼鏡で見る人もいるそうで、小西さんが、最初にマッターホルンに視察登山をした時も、アルペンジャーナリストをはじめ、多くの人が見物したそうだ。

この視察登山を非常に苦労した小西さん一行だが、見る人によっては北壁アタックを諦めたと映った。

ツェルマットに降りてからも、町の人々からは嘲笑の目で見られる。日本人が冬の北壁に登るなんて無理無理。

そんな雰囲気に小西さん一行も「なにクソ!」と思ったであろう。



ツェルマットを歩く。昔ながらスイスの建築も多く残る。

岩壁を命からがら登っていく。

そして漆黒の夜と厳寒。夜寝る時は、岩壁にハンモックを吊って寒さに耐えながら朝を待つ。宙ぶらんの足の下には、漆黒の闇が広がる。ハンモックが外れたら、真っ逆さまに落下する。凄い世界だ。

そして、、。。

彼らの一行は、断崖絶壁の氷の北壁を厳寒の中アタックした。ぜひ、小西さんのマッターホルン北壁6日間にも及ぶ登頂記を読んでみるのをオススメする。マッターホルンの見えかたが、違って見えるはず。



高尚なアルピニズムというよりも。

「山とは金では絶対に買うことのできない偉大な体験と、一人の筋金入りの素晴らしい人間を作るところだ。未知なる山との厳しい試練の積み重ねの中で、人間は勇気、忍耐、不屈の精神力、強靱な肉体を鍛えあげてゆくのである。登山とは、ただこれだけで僕には充分である。」

—『マッターホルン北壁 日本人冬期初登攀 (ヤマケイ文庫)』小西 政継著

小西さんは、胃の病気やヘルニアなどを乗り越えてマッターホルンへ挑む。

我々の人生においても、小西さんにとってのマッターホルン北壁のようなものが、大小あるであろう。僕にとっても、目標となるマッターホルン北壁のような山がある。それは実際の山ではないが、大きな目標としてだ。そんなことをマッターホルンと小西さんの登山記から思う。

ツェルマットまで行くことがあったら小西さんのパーティが厳寒の冬に挑んだマッターホルンの北壁を眺めたい。

ツェルマットから見るマッターホルン

※ 登山といえば、スント。かっこいいので、普段使いにもオススメの時計です。

小西さんのマッターホルンの次にオススメする冒険紀行

登山家による登山記は沢山あるが、中でも名著は植村直己さんに多く存在する。彼は、伝説的な登山家であるのと同時に、魅力的な文章を書く人だ。小西さんの「マッターホルン」と共にオススメします。

最初に紹介するのは、「エベレストを越えて」。植村さんが、エベレストに登った時の記録。登山には、様々な困難とドラマがあるのが伝わってくる。さすがに、我々がエベレスト登山というわけには行かないが、読むだけでエベレストの魅力に取り憑かれます。

エベレストを越えて (文春文庫 う 1-5)

名著「青春を山に賭けて」。最初は日本にある山への登山も苦労したところから、世界の植村になる過程が描かれる。とても面白いので、影響を受けた人も多いはず。

新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)

「極北に駆ける」は、上村さんの北極への挑戦が綴られてる。とにかく凄まじい。一気に読んでしまう面白さだ。

Photo and writing by Hasegawa, Koichi

 

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