パリ・アート紀行: エドゥワール・マネとクロード・モネのサン=ラザール駅

はじめに

今回はパリ・アート散歩。パリのサン=ラザール駅というモチーフに対して、近代絵画の巨匠たるマネとモネがどのようなアプローチで描いたのかを比較してみようと思う。彼らの視点が違うのが、わかり、興味深い。また、パリへ旅行をする時があれば、それぞれの作品を知っていると、この駅を訪れた時の感動が違うはず。

サン=ラザール駅(パリ)

サン=ラザール駅概要:パリで一番古いターミナル駅

サン=ラザール駅は、パリで最も古いターミナル駅。1837年に開業したこの駅は、今日もパリ北駅に次ぐ利用客数を誇る駅で、近郊電車でパリへ通勤してくる人も毎朝多く利用する。

フランスで鉄道が開業したのは1832年。最初に開通したのは、リヨンとサン・ティティエンヌ間だった。パリ方面はこれに少し遅れての開業であった。以降、徐々に鉄道網の整備とターミナル駅が設置されていく。

現在サン=ラザール駅からは、ノルマンディー方面への列車の発着がメインだが、開業当時はパリ郊外のサン・ジェルマン・アン・レーまでの営業運転であった。

パリ近郊マント=ラ=ジョリー。サン=ラザール駅からはノルマンディー方面へ電車が出ている。

近代化と時代の象徴

1830年にイギリスで開業した鉄道自体が19世紀の近代化の象徴であるが、ここでは駅舎の設計にも注目してみよう。

設計者ウジェーヌ・フラシャは、当時最先端であった鉄とガラスを使い屋根を作った。

19世紀において鉄鋼の製造は大きく進歩する。のちに、高層ビルなどにも応用されていく鉄鋼技術は、早くもサン=ラザール駅でも大きなガラス屋根を作るのに採用されている。

サン=ラザール駅内部。ガラス天井が特徴的。

駅そのものは重厚な石造りで出来ているが、これは19世紀パリに登場してきたブルジョア階級の趣味を現していると言われる。つまり、駅の工事にこうしたブルジョア階級の資本が投入されていたということになる。

最新技術とそれを可能にしたブルジョア資本。この駅は、19世紀を象徴する建物と言っていいだろう。

エドゥワール・マネクロード・モネは、それぞれこの駅を取り上げているが、この二人の天才の描く駅にはそれぞれに特徴があり、とても面白い。

マネの描くサン=ラザール駅

はじめにマネが描いたサン=ラザール駅を見てみよう。

印象派への道を拓き、近代絵画の祖と称されるマネの興味は、あくまでも人間であった。彼は「サン=ラザール駅」を描いてはいるが、我々鑑賞者は、「駅はどこであろう?」と思わず画面の中を探してしまう。

マネ『鉄道』(1873) ナショナル・ギャラリー、ワシントンD.C.

マネ作『鉄道』(1873)にはマネの興味が現れている

マネは風景を描く時も必ずといっていいほど、人間模様を取り入れる。いや、むしろ人間を描くために、景色を舞台として描いていると言っていいぐらいだ。

彼の『鉄道』は、線路脇から駅構内のほうを見る構図で、汽車から立ち込める蒸気と線路から駅近くとわかるが、あくまでもメインは二人の人物。

この絵が描かれたのは、駅舎内部ではなく、ヨーロッパ広場から。駅を出てローマ通りを歩くと1868年に完成したヨーロッパ橋に至る。ここからの眺めは駅を見渡せるが、マネの絵ではあくまでも背景として出てくるだけだとわかる。

パリはマネが生きた19世紀に大改造が行われ、近代都市に生まれ変わった。

それにしても、この親子であろう二人に流れている自然さは、それまでの絵画にはなかったもの。通常親子を描く時は、仲良しの肖像が常であった。

読書をしているのは母親であろうか。オランピアなどでモデルになったヴィクトリーヌ・ムーランの最後の肖像として知られる。右にいるのは娘であろう、退屈なのか鉄柵の向こうにあるはずの汽車を見ている。

構図としては非常に大胆で、発表当時も批評家や観客も困惑したそうだ。ミッシェル・フーコーも指摘しているように、二次元性を鉄柵や蒸気を使って強調している。奥行きを追求してきたそれまでの伝統的な絵画とは違う試み、まさにマネの真骨頂だ。
『鉄道』は、マネも印象派の影響から、戸外で描いた作品。では、印象派の生みの親モネの作品はどうであろう。

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モネの描くサン=ラザール駅

僕が始めてこの駅を使った時は、ジヴェルニーにあるモネ宅へ行く時だった。モネの有名なサン=ラザール駅シリーズに登場する駅ホームを見た時は、何か絵の世界を感じて、とても感動したのを覚えている。

モネの『サン=ラザール駅』は、計12点制作されている連作。そのうち何点かは印象派展にも出されている。僕の中のサン・ラザール駅のイメージは、正に「モネの描いた駅」だ。

モネ『サン=ラザール駅』(1877) オルセー美術館

鉄骨とガラス天井で作られた駅舎は、先に述べたように当時の最先端技術であった。この駅を頻繁に使っていたモネは、こうした新しい技術で作られた空間に興味を持っただろう。

彼の興味はマネと違い、場の雰囲気や光の移ろいにあった。駅や汽車といった現代的なモチーフを通して、雰囲気や光を表現していこうというのが伝わってくる。

ガラス天井からは、光が差し込み、汽車の蒸気と共に作り出す空気感。そして、それらが移ろいながら変化する光の効果。まさにモネが好みそうな景観だ。

ガラス天井からは光が差し込む。

今では蒸気列車は姿を消して電車になったが、駅の形は当時のまま。モネの絵画の世界を見れるので、是非立ち寄ってみてもらいたい。

個人的にマネの芸術は、見れば見るほど、また、知れば知るほどに美しさと面白さがわかってくる凄さがある。
モネの芸術は、うっとりするぐらいの美しさが、初見から伝わる凄さがある。

2人の天才の描くサン=ラザール駅。どちらも彼ららしい。

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Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

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