はじめに
アートを愛する者たちへ贈る、アーティストたちが愛した土地を巡る特別な旅。
ゴッホが情熱を込めて描いた南フランスの風景、マティスが彩り豊かな作品に反映させたニースの陽光、そしてゴーギャンが追い求めたタヒチの原始の美。それぞれの地がアーティストにどれほどのインスピレーションを与えたかを想像するだけで、心が躍る。
今回の旅は、シュルレアリスムの巨匠サルバドール・ダリに焦点を当てる。
マドリードから出発し、彼の故郷であるフィゲラス、そして生涯を過ごしたカダケスへと足を運ぶ。
アートと自然が織りなすこの道は、ただの旅ではなく、ダリの独創的な世界へと誘う冒険そのものである。彼の創作の源泉で、同じ空気を吸い、彼が愛した風景や光を感じながら、ダリの芸術世界を体感してみてはいかがだろうか。
ダリの軌跡を辿る旅:マドリードから始まる芸術の冒険
1904年生まれのダリは、幼い頃から絵画に興味を持ち、1922年には友人の勧めでフィゲラスからマドリードの王立サン・フェルナンドアカデミーに向かう。そこでは有名な映画監督になるルイス・ブニュエルとの出会いをはじめ、交友を広げ、彼自身もマドリードで個展も開くにまで成長した。
マドリードはスペインの首都の繁栄があり、ベラスケスやゴヤも宮廷で活躍した場所。王立アカデミーもゴヤが教えていた場所であるし、ダリも大きな刺激を受けたに違いない。
ダリを巡ってカタルーニャ:フィゲラスにあるダリ劇場美術館からスタート
カタルーニャでダリを巡るには、まず彼の出身地フィゲラスからスタートし、カダケスを目指す。今回カタルーニャを案内してくれた友人が自信を持って考えてくれたルートなので、もしバルセロナやカタルーニャを旅する機会があれば参考にしていただけると嬉しい。
フィゲラスまではバルセロナから電車でも行きやすい。
その最初の目的地はダリ劇場美術館。ここはフィゲラスを代表する観光地としても外せない。
この美術館は、アートファンにはぜひ訪れてもらいたいオススメの場所。バルセロナからの日帰り旅行にもピッタリの旅先なので、バルセロナから奇想天外なダリワールドに出かけてみてはどうだろうか。
ダリの少年時代と劇場美術館
ダリ劇場美術館は、ダリが少年時代に思い入れのある市民劇場を改修と増築をして造られた。市民劇場はスペインの内乱時に倒壊し、そのまま放置されてたもの。ダリは、フィゲラス市と共にダリ美術館として再建する事に着手し、1974年にオープンさせる。建物はその後数年に渡り改修増築をし、現在に至る。
ダリの作品が1万点以上収蔵され、彼のアートに触れるにはもってこいの場所だ。
ダリ劇場美術館
※↑ダリの作品をわかりやすく追える一冊。写真も多くオススメです。
ダリが愛した土地を目指しカダケスへ
ダリの足跡はマドリードをはじめ、パリ、ニューヨークなどがある。戦後アメリカから帰国したダリと妻のガラは、カダケス郊外にあるポルト・リガトに家を購入し住み着いた。
カタルーニャには美しい国土が広がるが、特に今回紹介するカダケスはリゾート地としても人気の場所。
フィゲラスから約1時間のドライブで地中海を目指す。やがて、カダケスが見えてきた。そこは、青い海と空に白い建物が挟まるように立ち並ぶ町。青と白の世界。まさに地中海のイメージが目の前に広がる。
カダケス、スペイン
(参考)カダケスへのアクセス方法:バルセロナからのルート
カダケスは、スペイン・カタルーニャ州ジローナ県にある。バルセロナからは少し離れた場所に位置し、地中海の青い海と白い家が並ぶ美しい海岸沿いの町だ。
バルセロナからカダケスへは、主に2つのルートが存在する。
1. バルセロナから直行バスによるルート
バルセロナから直行バスに乗る方法が最も手軽であろう。乗り換えなしでカダケスまで行くことができるため、時間的な余裕がない方にもおすすめできる。しかし、所要時間は約3時間と少し長くなる点が挙げられる。
2. バルセロナからフィゲラスへ電車、フィゲラスからカダケスへバスによるルート
バルセロナからフィゲラスまで電車で移動し、その後バスに乗り換えてカダケスへ向かうルートも考えられる。電車の旅を楽しむことができ、フィゲラスにあるダリ美術館も観光できる点が魅力である。
ただし、乗り換えが必要なため、若干手間がかかる点は留意すべきである。
どちらのルートを選ぶべきか?
どちらのルートを選ぶかは、個人の旅行スタイルや時間的な余裕によって異なる。
- 時間に余裕があり、景色を楽しみたい方: 直行バスがおすすめである。
- 乗り換えが苦にならず、フィゲラス観光もしたい方: 電車とバスの乗り継ぎがおすすめである。
その他の注意点
- シーズン: 夏場は観光客が多く、バスの便数も増える傾向にある。しかし、オフシーズンは便数が少ない場合があるため、事前に時刻表を確認することが望ましい。
- 交通機関: バス会社や電車の運行状況は変更になる場合があるため、最新の情報を確認するように努めたい。
- 宿泊: カダケスには、様々なタイプの宿泊施設が存在する。事前に予約しておくことで、スムーズな旅行が期待できる。
カダケスでの旅行のヒント
- ダリ美術館: フィゲラスにあるダリ美術館は、サルバドール・ダリの奇抜な作品を多数展示している。
- カダケス旧市街: 白壁の建物が並ぶカダケスの旧市街は、散策するだけでも楽しめる。
- ビーチ: カダケスには、美しいビーチがいくつかある。海水浴や日光浴を楽しむのも良いだろう。
- グルメ: 地元の海鮮料理は絶品である。新鮮な魚介を味わってみてはいかがだろうか。
カダケスは、大都市バルセロナや近郊のジローナ、フィゲレスといった街から離れているのもあってか、昔ながらの町並みが残っているのが印象的。多くのアーティストに愛された土地だ。
この町は、ダリでなくとも、美しく魅力的な所で、アート以外の目的でリゾートとして訪れる人が多い。夏は、沢山の人がバカンスを楽しむ。
きっとこの町は、訪れるそれぞれの人に、特別な魅力を見せるのであろう。
この町に住んだダリとその妻ガラ・エリュアール・ダリ。彼らの邸宅は今でも一般公開されている。海に近く、毎朝、夕方、海の景色を眺めることができる。その光景は、まるで夢の中にいるような美しさだ。
ポルト・リガトの片隅にそびえ立つダリの館は、彼の住居であり、創造の場でもあった。
アメリカからの帰還後、ダリ夫妻はここで静かな日々を過ごす。彼は無限の想像力を絞り出し創作を続け、妻のガラは読書をしながら知の海に浸かる。この場所は、情熱と創造の炎が絶え間なく燃える、奇跡の舞台であったのかもしれない。
イベリア半島最東端へ:クレウス岬
カダケスから足を伸ばしてダリの作品の世界を目指してみる。カダケスを後にし、イベリア半島最東端地点であるクレウス岬へ行ってみよう。
ダリは、柔らかい時計で有名な初期の代表作『記憶の固執』(1931)の中でクレウス岬を描いている。
クレウス岬の周辺は、ゴツゴツとした岩が連なる荒々しい海岸が広がっている。その奇妙な形をした岩々が、もしかするとダリにインスピレーションを与えたかもしれない。
旅を終えて:クラウス岬にて
地中海の果て、クレウス岬の灯台に立つと、眼前には果てしなく続く青い水平線が広がる。風は優しく、時折、古い物語を囁くように頬を撫でていく。
その日、僕はカタルーニャ生まれの友人と共に、シュルレアリスムの巨匠ダリの足跡を辿る旅に出た。しかし、それは単なるアート巡りではなかった。ダリの作品に隠された故郷への情熱を求める、そしてカタルーニャそのものの美しさを再発見する旅だった。
友人は熱い心を持つ人物だ。カタルーニャへの愛は、スペインからの独立を夢見るほど深い。彼の言葉にはその熱意が随所に宿っていた。
夕暮れ時、灯台の上で時間が止まったかのような瞬間が訪れる。友人が指差すその先には、夕陽がゆっくりと地中海に沈み、空と海が一体となる幻想的な光景が広がっていた。まるで、ダリの絵画の中に迷い込んだかのようだ。空に広がる色彩は、カタルーニャの誇り、そして友人が愛する故郷の魂そのものを映し出していた。
僕たち二人だけがこの場所にいた。それでも、全てが静寂に包まれ、自然と対話するかのような瞬間を共有していた。これほどまでに美しい景色を、友人は最後に僕に贈ってくれたのだ。カタルーニャの大地が、アートと魂が織り成す物語を静かに語っていた。
芸術家に愛された場所を訪ねて
今回ご紹介したカタルーニャ地方は、サルバドール・ダリやパブロ・ピカソなど、多くの名だたる芸術家たちに愛された地だ。
彼らが創作の場として選んだこの場所には、どのような魅力が秘められていたのであろう。そして、彼らはどのような風景や文化に触れ、どのようなインスピレーションを受けながら作品を生み出していたのであろうか。
アーティストの創作環境を辿る旅は、作品への新たな理解を深める上で非常に興味深いアプローチだ。特に、シュルレアリスムの巨匠サルバドール・ダリの足跡を追う旅は、彼の複雑で神秘的な作品世界への鍵となるかもしれない。
彼の故郷であるカタルーニャ地方、フィゲレスやカダケス、そして彼の作品に頻繁に登場するクレウス岬。これらの場所をじっくりと巡ることは、彼の美術的な挑戦や奇想を紐解くヒントとなるだろう。
もちろん、ダリの作品やその難解さが、この地を訪れただけで即座に理解できるわけではないかもしれない。しかし、彼が吸った空気、歩いた道、そして見た風景に触れることは、彼の創作プロセスにおける環境の影響を理解するための重要な体験となるだろう。アーティストの創造力を育んだ場所を自分の目で見て、感じることで、作品への新たな視点が開かれるかもしれない。
ダリが愛したカタルーニャの大地には、彼の芸術の奥深い魅力と、その根底にある世界観が静かに息づいている。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi
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