文学紀行:宮本輝の小説『ここに地終わり海始まる』とユーラシア大陸最西端ロカ岬(ポルトガル)への旅

ユーラシア最西端、ロカ岬。

はじめに

「ポルトガルの果て、ロカ岬への旅」

宮本輝の名作『ここに地終わり海始まる』を読んで以来、私の心に深く刻まれたロカ岬。果てしない大地と広がる海の境界に、いつか自分も立ってみたいと思っていました。

皆さんも、小説や映画で見た場所に足を運んでみたくなることがあるのではないでしょうか?

今回、その夢を現実にし、ユーラシア大陸の最西端、ロカ岬へと旅立ちます。大西洋に沈む夕日と、世界の果てに立つ感覚を、一緒に味わってみませんか?

ロカ岬、ポルトガル

1. 宮本輝『ここに地終わり海始まる』:あらすじ

宮本輝の小説『ここに地終わり海始まる』

宮本輝の代表作といえば『錦繍』『蛍川』など有名ですが、その美しい文章と深い人間描写は、読者を心の奥底まで揺さぶります。彼の作品には、誰もが一度は共感できる繊細な感情や、人生の再生という普遍的なテーマが描かれています。

そして、今回取り上げる『ここに地終わり海始まる』も、そうした魅力が詰まった一作です。

物語の始まりは、18年間も北軽井沢で結核療養をしている女性のもとに届いた、一本の絵葉書から。「早く病気を治してください」という一言が添えられたその絵葉書は、ポルトガル、ユーラシア大陸の最西端、ロカ岬から送られてきたものでした。そこには、ロカ岬に立つ石碑の写真が写っています。

この絵葉書が、彼女の人生を変えるきっかけとなり、物語は再生への旅路へと展開していきます。

宮本輝特有の詩的な筆致とともに、再び生きる力を取り戻す主人公の姿が、読む者の心に深く響き渡る作品です。

ユーラシア大陸最西端のロカ岬

2. ユーラシア大陸最西端の地:ロカ岬へ

小説のタイトルにもなっている「ここで陸地が終わって、海が始まる」という言葉。壮大な歴史と冒険の余韻に浸ることができる、まさに想像力がかき立てられる言葉ですよね。

このフレーズは、私を強くロカ岬へと惹きつけました。巨大なユーラシア大陸がここで幕を下ろし、その先には果てしなく広がる大西洋が続いていく。この壮大な光景に、心の底からロマンを感じざるを得ません。

ロカ岬の広がる海の先に、遥か彼方にはアメリカ大陸が存在します。まさにここは、かつての冒険者たちが新天地を求めて大海原へと旅立った場所。ポルトガルは大航海時代を牽引した国であり、この海を舞台に数多くの物語が紡がれました。彼らの冒険を思い浮かべながらロカ岬を訪れることで、旅はさらに豊かなものになります。

リスボンにある発見のモニュメント

3. ロカ岬から大航海時代のロマンを感じる

ロカ岬に立つ石碑には、ポルトガルが誇る大詩人、ルイス・ヴァス・デ・カモンイス(1524-1580)の代表作『ウズ・ルジアダス』(1572年)の一節が刻まれています。

「Onde a terra acaba e o mar começa」(ここに地終わり、海始まる)

この言葉は、大西洋を前にして静かに立つ石碑に深い意味を与えています。かつてこの地は、未知の海の向こうに何が広がっているのかを知る者がいない、「世界の果て」でした。この一節が示すように、ここはまさに大陸の終わり、そして大航海の始まりを象徴する場所です。

この場所に立つと、当時の冒険者たちが抱いたであろう大いなる未知への畏敬と期待が、現代に生きる私たちにも鮮明に蘇ってきます。ポルトガルの偉大な詩人が残した言葉とともに、歴史の中で紡がれた壮大な物語がここに息づいているのです。

ロカ岬にある灯台

この石碑を見つめた後、振り返ると、眼前に広がるのは果てしない大西洋。その美しさは圧巻で、まさにここで大陸が終わり、海が始まっていると実感させてくれます。この壮大な海の彼方には、無限の可能性が広がっているのです。

大西洋が限りなく美しい。

石碑に刻まれているカモンイスの一節

カモンイスの詩は、大航海時代を象徴する人物、ヴァスコ・ダ・ガマ(1460-1524)を称えたものです。彼は、アフリカの南岸を越え、インドへと至った最初のヨーロッパ人として歴史に名を刻みました。1497年7月、リスボンを出発し、彼の冒険が始まります。

ヴァスコ・ダ・ガマの探検もワクワクします。彼はアフリカ南岸を越えてインドまで到達した最初のヨーロッパ人と言われています。1497年7月にリスボンを出発。

アフリカの南の先には希望峰があります。ガマもここを越えてインド洋へ向かいます。同年の11月のことでした。

それより先の1488年に、同じくポルトガル人のバルトロメウ・ディアスが、最初に希望峰に到達していますが、あまりの嵐で「嵐の岬」と命名しました。その後のインド航路の発展から、希望峰と名前が変わりました。

ガマはその後グレートフィッシュ川を越えます。ここはバルトロメウが到達したポルトガル人が到達したさいはての地。ついにはインド洋を渡り、翌年5月にインドに到達します。この偉業を成し遂げたガマを讃えるために、カモンイスはその詩を詠んだのです。

大航海時代の壮大な冒険と、数多の困難を乗り越えた彼らの物語が、今ここに息づいています。この地を訪れることで、彼らの冒険心と夢が再び蘇るのを感じることでしょう。

ロカ岬に立つ石碑

ロカ岬に立つと、カモンイスの一節「ここに地終わり海始まる」を実感できます。ユーラシア大陸最西端。そして、大航海時代の夢。

この先ポルトガルに行く機会があればぜひとも訪れてみてください。この風景を思いながら宮本輝の小説『ここに地終わり海始まる』を思い返すのもいいですね。オススメです。

ロカ岬から大西洋を眺めて

4. 宮本輝のオススメ小説

多作で傑作も多い宮本輝。その代表作をちょっと紹介。

  • 錦繍: 男女の美しい物語である錦繍は、往復書簡で進む話。初期の名作。
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  • ドナウの旅人: これも男女の物語。ドイツからオーストリアへと流れるドナウ川を旅をする。この小説は僕も好きな一冊で、またドナウを題材とした記事で取り上げてみたいと思っています。
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  • 流転の海:これもまた代表作であり、長編傑作。必読のシリーズです。これについては違う記事で取り上げてみたいと思っています。関西を中心に四国や日本海が舞台のドラマ。
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  • 草原の椅子:大好きな小説です。大阪界隈が舞台ですが、なんと言ってもクライマックスは最後の桃源郷と言われるフンザの地。映画も名作です。
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(参考) ロカ岬への行き方

ロカ岬へ行かれる場合、個人で行くのは少し難しいかもしれないです。僕はリスボンのホテルからバスツアーでここへ行きました。日帰りで連れて行ってくれるので、便利なバス旅行もオススメ。

Photo and writing by Hasegawa, Koichi

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