バーミンガムの運河を歩く
バーミンガムのもうひとつの魅力が、運河である。
イギリスの運河というと、のどかな田園風景の中を流れているイメージを持つかもしれない。けれどバーミンガムでは、運河は街の中心部にも入り込んでいる。
産業革命期、運河は物流の重要なインフラだった。
石炭、鉄、原材料、製品。こうしたものを運ぶために、イギリス各地に運河網が発達した。バーミンガムもまた、その運河によって産業都市として成長していった街である。
現在の運河沿いは、かつての産業の場というより、散歩や食事、観光を楽しむ水辺の空間になっている。
それでも、レンガ造りの建物や水辺に停まるボートを見ていると、ここがかつて都市の働く風景の一部だったことが伝わってくる。

イギリスの運河とナロウ・ボート
イギリスの運河を歩いていると、細長い船を見かけることがある。
これがナロウ・ボートである。
名前の通り、細い運河を航行するために幅が狭く作られている。イギリスの運河は場所によってかなり狭いため、そこを通る船も細長い形になった。
かつては物流のために使われた運河も、現在ではレジャーや観光の場として親しまれている。ナロウ・ボートの中には、キッチンや寝る場所を備え、週末や休暇を過ごせるようになっているものもある。
水辺に停まるナロウ・ボートを眺めていると、イギリスらしい静かな旅の形が見えてくる。
車や鉄道で速く移動するのではなく、ゆっくりと水路を進む旅。橋をくぐり、ロックを越え、街や田園を少しずつ通り抜けていく。
そうした時間の流れは、産業革命のインフラが現代の余暇へと姿を変えたものでもある。
ガス・ストリート・ベイシンを散策する
バーミンガムで運河沿いを歩くなら、ガス・ストリート・ベイシン周辺が印象的である。
ここは、バーミンガム中心部にある運河の合流点のひとつで、水辺にはナロウ・ボートが停まり、周辺にはレストランやパブが並んでいる。
運河沿いを歩くと、街の中心にいるのに、少しだけ時間がゆっくりになる。
水面に建物が映り、ボートが静かに停まり、レンガ造りの建物が産業都市の記憶を伝えている。そのすぐ近くには、ショッピングエリアや現代的な建物もあり、ここでもまた新旧のバーミンガムが重なって見える。
昼間に歩くのもいいが、夕方から夜にかけての雰囲気もよい。
レストランやパブの明かりが水面に映り、街の喧騒が少し柔らかくなる。工業都市の水路だった場所が、今では人々が食事をし、語り、散歩する場所になっている。

産業都市の記憶と美術の街
バーミンガムの魅力は、一言では言いにくい。
ロンドンのような圧倒的な観光都市ではなく、オックスフォードやケンブリッジのような古典的な美しさを前面に出した街でもない。
けれど、バーミンガムにはバーミンガムならではの厚みがある。
産業革命の記憶。運河とレンガ造りの建物。近未来的な商業施設。ヴィクトリア期の教会。バーン=ジョーンズのステンドグラス。ラファエル前派を収蔵する美術館。
これらは一見ばらばらに見える。
しかし実際に歩いてみると、どれも同じ街の中で自然につながっていることがわかる。
バーミンガムは、過去と現在が強く混じり合う都市である。
工業都市としての歴史がありながら、その中に美術と建築の記憶があり、さらに現代的な都市空間へと更新され続けている。
バーミンガムを歩くということ
バーミンガムを訪れるなら、有名な観光地を急いで回るというより、街の中心をゆっくり歩いてみるのがいい。
セイント・マーチン教会の前に立ち、ブル・リングの現代建築を見る。バーミンガム美術館でラファエル前派に触れる。運河沿いへ出て、ナロウ・ボートが停まる水辺を歩く。
そうしていると、バーミンガムという街が、単なる産業都市ではないことが見えてくる。
ここには、ものを作る都市の力があり、変化し続ける建築があり、美術を育てた文化があり、水辺に残る産業の記憶がある。
旅する美術史の視点で見るなら、バーミンガムはとても面白い街である。
美術館の中だけでなく、教会のステンドグラスにも、運河沿いのレンガの建物にも、街の歴史が残っている。
バーミンガムを歩くことは、イギリス近代の産業と文化が交差する場所を歩くことでもある。








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