ヴェネツィアの宝石、カフェ・フローリアン:歴史とアートが交差する場所
今回ご紹介するのは、ヴェネツィアのサン・マルコ広場に輝く伝説的なカフェ、カフェ・フローリアンです。長い歴史を誇り、その豪華な内装と洗練された雰囲気で、訪れる人々を魅了してやみません。ヨーロッパに数多くあるカフェの中でも、フローリアンは一際特別な存在です。
ここで語られるのは、ただの歴史ではありません。アートと文化の交差点として、現代アートとの深い結びつきがあるのです。今回は、カフェ・フローリアンと現代アートが織りなす特別な関係を紐解いていきましょう。
目次
1. 最古のカフェであるフローリアンとカフェ・ラテ
カフェ・フローリアンの創業は1720年12月29日。その歴史は300年以上に及びますが、創業当初と同じく、サン・マルコ広場の南側で訪れる人々を迎え続けています。
フローリアンが誕生する以前にも、ヴェネツィアにはコーヒーを提供するお店は存在していました。しかし、本格的にコーヒーを楽しむための社交の場が生まれたのは、まさにフローリアンからなのです。
そして、カフェ好きにはたまらないポイントの一つが、カフェ・ラテ発祥の地としてのフローリアンの名声です。今では当たり前のように楽しむカフェ・ラテ(フランスではカフェオレ)ですが、このミルクとコーヒーの絶妙な組み合わせが誕生したのは、なんとこの場所から始まったのです。伝統と革新が融合したフローリアンだからこそ生まれた味わい。カフェ・ラテを飲むたびに、その歴史を感じずにはいられません。
サンドイッチなどの軽食は少し高いですが、フローリアンの雰囲気の中で楽しむのも、いい思い出になるはず!いつかヴェネツィアへ行くことがあれば、ぜひ。
2. 社交の場としてのカフェ文化:ヨーロッパのカフェ
カフェが単なるコーヒーを楽しむ場所から、交流の場やサロン、そして議論の場として発展したのは、フローリアンがその原型を作ったからこそです。後にパリやウィーンでも、芸術家や政治家、哲学者たちがこぞって集まるようになり、カフェは彼らにとって欠かせない存在となりました。
ヨーロッパのカフェ文化は、芸術家たちが集い、活発に議論を交わすことで文化そのものを牽引してきた場所でもあります。フローリアンはその始まりとなり、今日のカフェ文化の礎を築いたのです。
例えば、19世紀パリで有名なカフェ・ゲルボアには、当時のアートシーンを代表する芸術家たちが集っていました。エドゥアール・マネを中心に、ドガや写真家ナダール、文筆家ゾラ、さらに若き日のモネやルノワール、セザンヌまでもが顔を出していたのです。彼らが織りなした会話や交流は、その後の美術史に大きな影響を与えました。
一方、モンパルナスのラ・ロトンドでは、ピカソやモディリアーニがその創作の合間に出入りし、インスピレーションを共有する場として活用されていました。カフェはただの飲食の場ではなく、アートの革新が生まれるクリエイティブな空間だったのです。
もちろん、ヴェネツィアのフローリアンにも沢山の著名人が訪れています。
例えば、画家のクロード・モネやアンディー・ウォーホル、詩人のゲーテ、音楽家のリヒャルト・ワーグナー、作家のディケンズ、マルセル・プルースト、哲学者のニーチェ、俳優のチャーリー・チャップリンなど、そうそうたる面々ですね。
※ バルセロナの「四匹の猫」も19世紀から20世紀初頭のバルセロナにあって、アートシーンを牽引したカフェでした。詳しくは下のリンクから。
3. フローリアンと現代美術との関係:ヴェネツィア・ビエンナーレ
では、カフェフローリアンと現代アートについてをみていきましょう。
2年に1度行われるヴェネツィア・ビエンナーレは、現代美術において重要な展覧会の1つです。
ヴェネ
ビエンナーレが行われる時は、世界中から美術関係者がこの街に押し寄せます。現代美術においてヴェネツィアは、バーゼル、ロンドン、ニューヨークなどで行われるアートフェアとともに世界を牽引するネームバリューを持っているんですね。
この国際的な展覧会の始まりは、1893年のカフェ・フローリアンの The Senate Roomでの会合から生まれたそうです。
当時のヴェネツィア市長であったリカルド・セルヴァティコ(Riccardo Selvatico)と同席した知識人やアーティスト達は、ウンベルト一世とマルゲリータ王妃の銀婚式を祝う美術展覧会を企画しました。
このアイディアは、1895年の実現。
その後は国際政治の勢力争いの構図が出てきたり、有名な画家の回顧展などを行いながら定着していきます。
大戦中は、ファシスト党がビエンナーレをプロパガンダ的な用途に使ったりしましたが、大戦後は、現代のような前衛美術や現代アートを展示する国際的展覧会として復活しました。
こうして、今も世界中が注目する現代アートの展覧会としての権威を持つようになります。
※ 吉阪隆正設計による日本館は、1956年に完成しています。日本は1952年からビエンナーレに参加しています。
ビエンナーレの時期以外にもフローリアンをアートスペースとして使う現代アーティストやデザイナーがいます。
これは1988年以降から始まった試み。Bruno Ceccobelli, Mimmo Rotella, Pietro Ruffoなどのイタリア人現代作家たちや、イタリア人デザイナーのAldo CibicがフローリアンのThe Chinese Roomでインスタレーションをしたりと、このカフェは現代アートとのつながりがあって面白いんですよ。
フローリアンは、最先端のアートやデザインという繋がりを持ちながら、今なお沢山の人にコーヒーを提供しています。そして、もちろん店内を飾る歴史的な装飾や絵画も一緒に楽しみたいです。
参考
フローリアンのメニューやイベント情報が載っています。
https://www.caffeflorian.com/en/
ヴェネツィアの気分に浸れる音楽を紹介
カフェとアートを紹介しました。最後に少しヴェネツィア気分に浸れる音楽を紹介します。
ヴェネツィアといえばヴィヴァルディですね。もし訪れる機会があれば、ヴィヴァルディのコンサートを聴くのもいい思い出になります。
ここではカラヤンの名演を。
ヴァイオリンの女王的な存在であるアンネ=ゾフィー・ムターのヴィヴァルディを堪能できます。
そしてポリーニの奏でるショパンの舟唄と子守唄。うっとりする美しさです。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi and Shino
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