プラハの夜を歩く旅へようこそ ― 映画と文学の世界と共に
夜の散歩シリーズ。チェコのプラハ編です。石畳が続く美しい街並みと、歴史の深みが漂うプラハの夜を舞台に、文学や映画の名作がどのように息づいているのかを探ってみませんか?
カフカの『変身』が描く不気味さ、浦沢直樹の『モンスター』が映し出すサスペンス、そしてトム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』の緊張感―それぞれがこの魅惑的な街を舞台に展開される傑作たちです。
今回散歩した場所
家にいながらプラハの夜を旅するような感覚で、さあ、旧市街からカレル橋までの散歩に出かけましょう。
フランツ・カフカの『変身』
フランツ・カフカの『変身』は、20世紀文学を語る上で欠かせない傑作です。1915年に発表されたこの短編小説は、チェコを代表する作家カフカの名声を不動のものにしました。物語の主人公、グレゴール・ザムザはある朝、目覚めると巨大な虫に変わっているという驚愕の状況に直面します。カフカの緻密な描写と巧みな筆力により、読者はこの奇妙で不条理な世界に引き込まれ、一気に物語を読み進めてしまうことでしょう。
『変身』は、個人が直面する不幸と、その影響を受ける家族の姿を冷徹に描いており、現代社会に通じる普遍的なテーマを内包しています。
ちなみに、うちの妻にあらすじを少し話しただけだったが、「怖くて読めない!」と言ってました。
カフカの『変身』の冒頭で、主人公グレゴール・ザムザが目覚めた朝には霧が立ち込めていたという描写があります。この情景は、幻想的で陰鬱なプラハの朝を思わせますが、実際の物語には舞台がプラハだという明確な記述はありません。しかし、カフカ自身が生涯のほとんどをプラハで過ごし、この街の独特な雰囲気や文化、建物に影響を受けていたことを考えると、物語の背景がプラハの一室である可能性は十分に感じられます。
プラハは、歴史あるゴシック建築や石畳の街並みが広がり、霧がたちこめるような早朝や薄暮には特に幻想的な雰囲気が漂います。狭い路地や中世から続く建物の陰影は、カフカの作品が持つ不条理で不安をかきたてる世界観ともよく重なるものです。『変身』が具体的にプラハを舞台にしていなくても、カフカがこの街で感じていた孤独や疎外感が作品に反映されているのは間違いありません。
カフカが育った旧市街の静かな家の一室で、朝の霧が窓の外に広がる中、彼が感じた不安や閉塞感は、まさに『変身』に描かれたグレゴールの心情と響き合うものがあるでしょう。プラハの空気が、カフカの作品全体に潜んでいるのかもしれません。
夜のプラハ旧市街を歩く ― 魅惑的な街と文学の世界を巡って
夜になると、プラハの旧市街はまるで別世界のように美しく変貌します。石畳が月明かりに照らされ、中世の街並みが静かに息づくこの空間は、多くの物語の舞台としても登場します。そんなプラハの夜を、少し歩いてみましょう。
僕がプラハを訪れたのは、夏のある年。デューラーの傑作を鑑賞することと、ミュシャ美術館を訪れることが目的でした。ベルリンから電車でプラハに入るその瞬間、ふとカフカの『変身』を思い出しました。グレゴール・ザムザも、あの奇妙な朝、列車に乗って商売へ向かう予定だったはず。そんなことを考えながら、列車を降りたときの気持ちは、今でも鮮明に覚えています。
また、浦沢直樹の『モンスター』を読んだことがある方なら、ドイツからプラハに電車で入るシーンが思い浮かぶでしょう。この作品のファンとして、実際にそのルートを辿るのはちょっとした夢でした。プラハを旅する機会があれば、ぜひドイツから列車でこの街に入る経験をおすすめしたいです。夜のプラハが、あなたをどんな物語に誘ってくれるか、楽しみにしながら。
プラハの旧市街を歩いてみましょう ― 迷路のような路地と歴史の広場へ
ホテルに荷物を置き、早速迷路のようなプラハ旧市街の路地を歩き始めました。このエリアは入り組んだ道が多く、どこを曲がっても新しい発見があります。古い建物が重なり合い、街灯の明かりが石畳に反射して、どこか神秘的な雰囲気が漂っています。
しばらく歩いていると、突然視界が広がり、目の前に壮大な旧市街広場が現れました。この広場は、歴史の息吹を感じさせる壮大な建築に囲まれ、夜の静けさの中で一層その美しさが際立ちます。プラハの象徴とも言える天文時計やティーン教会が、広場の雰囲気に深みを与え、まるでタイムスリップしたかのような感覚に包まれます。
迷路のような路地から、この大きな広場に出た瞬間の感動は、プラハの夜を歩く醍醐味の一つです。
目の前に広がるのは、光に包まれた幻想的な空間。ティーン教会の尖塔が空へ向かってそびえ立ち、左手には天文時計が静かに時を刻んでいます。広場全体が眩い光に照らされ、その美しさは息を呑むほどです。
プラハが他のヨーロッパの街と違って見えるのは、やはり「100塔の街」と呼ばれるほど多くの塔が街に点在しているからでしょう。その独特なデザインが、まるで童話やおとぎ話の世界に迷い込んだような感覚を与えてくれます。夜のプラハは、その神秘的な美しさで訪れる人を魅了し、どこか異世界に足を踏み入れたかのような特別な体験をさせてくれるのです。
浦沢直樹の傑作ミステリー『モンスター』
浦沢直樹の作品の中でも、特にミステリーの要素が際立つものとして『モンスター』や『マスターキートン』が挙げられます。どちらも、緻密なストーリーとスリリングな展開で知られていますが、プラハは『モンスター』のクライマックスへ向かう中で、非常に重要な舞台として登場します。そして、特に「夜のプラハ」が物語において重要な役割を果たしているのです。
20世紀のプラハは、東西冷戦の影響を強く受けた歴史を持ち、その独特の緊張感や重厚な雰囲気が、浦沢の作品にもしっかりと反映されています。夜のプラハの静かで美しい風景の中にも、歴史が作り出した複雑な影が忍び寄るような描写があり、物語に深みを与えています。
『モンスター』は、ドイツやチェコを舞台に繰り広げられる壮大なミステリー。ヨーロッパのこの地域に興味がある方には、ぜひともおすすめしたい傑作です。
漫画も傑作ならアニメ版も本当によく出来ています。
下に紹介したものは、外国語版ですが、日本語版より安いです。フランス語等の字幕が出るが、日本語音声。
トム・クルーズ『ミッション・インポッシブル』(1996)。
映画の冒頭が舞台となるのは、プラハの夜。ご覧になった方も多いかと思いますが、プラハの美しい夜景とともに、次々と謎が提示されるこのシーンは、映画の緊張感を一気に高める重要な役割を果たしています。重厚で歴史を感じさせる街並みと、スリリングなスパイアクションが絶妙に組み合わさったこのシーンは、シリーズの中でも特に印象的です。
『ミッション・インポッシブル』シリーズの中で、この1996年の第1作が一番好きだという人も少なくないでしょう。プラハの夜の美しさが、映画全体の雰囲気を一層引き立てており、アクション映画好きだけでなく、プラハの魅力に触れたい方にもおすすめです。
僕は夜の街を撮るのが好きですが、プラハは本当に絵になる街です。
特に夜のプラハは、中世の路地や石畳が光に包まれ、どの角度から見てもまるで映画のワンシーンのよう。美しく照らされた建物が並び、ヴルタヴァ川が静かに流れ、丘の上には荘厳なお城が佇んでいます。
この街は歴史的にも、東西の狭間で揺れ動いてきた独特の過去を持ち、その背景が街並みに深い陰影を与えています。こうした歴史的な雰囲気が、プラハを物語や映画の舞台にするのにぴったりな理由でしょう。カメラを片手に、夜のプラハを歩けば、どこを撮っても絵になる瞬間に出会えます。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi and Shino
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