ウィーンのカフェを旅する|クリムトが通ったカフェ・ムゼウムと美術史美術館の美しい時間

ウィーン美術史美術館

ウィーン美術史美術館という宮殿のような空間

ウィーンで美術を旅するなら、ウィーン美術史美術館は欠かせない。

この美術館は、ヨーロッパを代表する美術館のひとつであり、ハプスブルク家の膨大なコレクションを背景に持つ。
ブリューゲル、フェルメール、カラヴァッジョ、ベラスケス、クラーナハ、ルーベンス。
美術史の中で重要な作品が、壮麗な空間の中に並んでいる。

しかし、この美術館の魅力はコレクションだけではない。
建物そのものが、ひとつの大きな芸術作品のようである。

19世紀末に完成した美術館建築は、ネオ・ルネサンス様式の壮麗な外観と、華やかな内部空間を持っている。
階段、吹き抜け、壁画、装飾、天井。
展示室に向かう前から、すでに美術史の中へ入っていくような感覚がある。

ウィーン美術史美術館の内部
宮殿のようなウィーン美術史美術館の内部。Photo by HASEGAWA, Koichi

美術館の内部には、若きクリムトが関わった装飾画も含まれている。
つまり、ここは古典絵画を収蔵する美術館であると同時に、ウィーン世紀末の芸術家たちの仕事も刻まれた空間なのである。

作品を見る場所であるはずの美術館そのものが、すでに見られるべき作品になっている。
ウィーン美術史美術館には、そんな豊かさがある。

美術館の中にある美しいカフェ

このウィーン美術史美術館の中に、非常に美しいカフェがある。

美術館の壮麗な空間の中でコーヒーを飲む。
それだけでも特別な体験である。
展示室を歩き、名画を見続けたあと、ふと椅子に座る。
天井を見上げ、装飾に囲まれながら、一杯のコーヒーを味わう。
その時間は、鑑賞の続きのようでもあり、鑑賞から少し離れた休息のようでもある。

ウィーン美術史美術館内にあるカフェ
ウィーン美術史美術館内にあるカフェ。Photo by HASEGAWA, Koichi

ヨーロッパの美術館には、魅力的なカフェが多い。
けれども、ウィーン美術史美術館のカフェには、特別な華やかさがある。
それは、カフェが美術館の付属施設として存在しているというより、美術館建築の一部として溶け込んでいるからだろう。

美術館での休憩は、単なる疲労回復ではない。
とくにこの場所では、食事やコーヒーの時間そのものが、建築鑑賞の時間になる。

カフェに座ることで、展示室とは違う角度から美術館を眺めることができる。
歩きながら見る建築と、座って見上げる建築は違う。
鑑賞者として移動していた身体が、ひとつの場所に落ち着くことで、空間の美しさがゆっくり届いてくる。

ウィーン美術史美術館のカフェのスイーツ
美術館カフェのスイーツや飲み物。Photo by HASEGAWA, Koichi

美術とカフェが重なる時間

ウィーンのカフェ文化と、美術史美術館のカフェ。
この二つを続けて考えると、ウィーンという街の特徴がよく見えてくる。

カフェ・ムゼウムは、芸術家や知識人が集った都市文化の場である。
そこには、会話、議論、雑誌、展覧会、芸術運動の気配がある。

一方、美術史美術館のカフェは、壮麗な美術館建築の中にある休息の場である。
そこでは、名画を見た後の余韻と、建築空間の美しさが重なっている。

どちらも、単にコーヒーを飲む場所ではない。
一方は芸術が語られた場所であり、もう一方は芸術を見た後にその余韻を味わう場所である。

ウィーンでは、カフェが美術史の外側にあるのではなく、美術史の周辺に深く入り込んでいる。
作品を生む前の時間。
作品を見た後の時間。
そのどちらにもカフェがある。

ウィーンを旅するなら、カフェで時間を使いたい

旅先では、つい予定を詰め込みたくなる。
美術館を見て、教会を見て、宮殿を見て、街を歩いて、次の場所へ向かう。
もちろん、それも旅の楽しみである。

けれども、ウィーンでは少しだけ立ち止まりたい。
カフェに入り、コーヒーを頼み、ケーキを食べ、周囲の空気を感じる。
その時間があることで、ウィーンの印象はずっと深くなる。

カフェ・ムゼウムでは、世紀末ウィーンの芸術家たちが集った時間を想像する。
美術史美術館のカフェでは、ハプスブルクのコレクションと壮麗な建築の余韻を味わう。

美術館で作品を見ること。
街を歩くこと。
そしてカフェに座ること。
ウィーンでは、その三つが自然につながっている。

一杯のコーヒーが、旅の中の小さな休憩ではなく、美術史と都市文化に触れる時間になる。
それが、ウィーンのカフェの魅力なのだと思う。

ウィーンを旅するなら、ぜひカフェで少し長く過ごしてみたい。
そこには、作品の前とはまた違う、美術の時間が流れている。

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつる文章を書いています。

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