夜の散歩シリーズ:プラハ、物語の気配が残る夜

『モンスター』が似合う夜の街

浦沢直樹の『モンスター』は、ドイツとチェコを舞台にした傑作ミステリーだ。
その物語が進むにつれて、プラハはきわめて重要な場所として立ち現れてくる。
なかでも印象的なのは、夜のプラハが持つ独特の張りつめた空気である。

20世紀のこの地域は、東西冷戦の影響を強く受けた歴史を持つ。
プラハには、その複雑な記憶が街並みの奥に今も沈んでいるように思える。
美しい広場や橋や塔の背後に、時代の影が確かにある。
『モンスター』の緊張感がこの街によく似合うのは、そうした歴史の重みがあるからかもしれない。

旧市街広場のカフェ。夜のプラハには、物語の一場面のような空気がある。

プラハの夜は、賑わいの中にもどこか沈黙がある。
その沈黙が、ミステリーやサスペンスを自然に引き寄せる。
夜のカフェや広場を見ていると、たしかにここは、物語の舞台になりうる街なのだと思わされる。

映画が始まりそうな夜のプラハ

映画『ミッション:インポッシブル』第一作の冒頭も、プラハの夜を印象的に使っていた。
あの場面を思い出す人も多いだろう。
美しい夜景とともに、次々に謎が提示され、観客は一気に物語の緊張の中へ引き込まれていく。

プラハの夜は、映画のために作られたセットのように見えることがある。
ライトアップされた建物、ヴルタヴァ川の流れ、丘の上に見える城、橋の上を渡る影。
どこを切り取っても、画面として成立してしまう強さがある。

カレル橋からプラハ城を見る。

僕は夜の街を撮るのが好きだけれど、プラハは本当に絵になる街だった。
とくに夜のプラハでは、中世の路地や橋や塔が光に包まれ、どの角度から見ても映画のワンシーンのように見える。
それでいて、ただ美しいだけで終わらない。
この街には、歴史の深い陰影がある。

東西のはざまで揺れ動いてきた記憶、ゴシックからバロックへ重なっていく建築、文学や映画を引き寄せる不思議な空気。
そうしたものが夜になると一層はっきりと感じられる。
プラハの夜を歩くというのは、風景を見るだけでなく、物語の気配そのものを歩くことなのかもしれない。

また別の街でも、こんなふうに夜の光景を歩いてみたい。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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