ノッティンガム夜散歩|城の下に灯る古いパブとロビンフッドの影

ノッティンガムの夜には、どこか物語の気配がある。

ロビンフッドの伝説、城の影、古い石造りの建物、そして岩山の下に灯る一軒のパブ。
昼間に歩く街とは少し違って、夜のノッティンガムは、歴史と伝説が静かに近づいてくるような場所だった。

今回歩くのは、ノッティンガム城のすぐ下にある古いパブ、Ye Olde Trip to Jerusalem
日本語にすれば、「古きエルサレムへの旅」といったところだろうか。

名前からして、すでに旅の物語が始まっている。
エルサレム、十字軍、旅人、古い宿、城の下の岩山。
その響きだけで、夜の散歩に出かけたくなる。

Ye Olde Trip to Jerusalemの看板
看板には1189年の文字が記されている。Photo by HASEGAWA, Koichi

ノッティンガム城の下へ

Ye Olde Trip to Jerusalem は、ノッティンガムでもよく知られた歴史あるパブである。
ノッティンガム城のすぐ下、キャッスルロックと呼ばれる岩山の麓に建っている。

この場所が面白いのは、ただ古いだけではない。
城が岩山の上にあり、その下にパブがある。
それだけで、街の風景に縦の時間が生まれている。
上には権力の象徴としての城。
下には旅人や町の人々が集まるパブ。
その配置が、いかにもイギリスの古い街らしい。

夜にこのあたりを歩くと、石や岩や古い建物の輪郭が、昼間よりもはっきりと感じられる。
細部は闇に沈む。
そのかわり、灯りがある場所だけが浮かび上がる。

Ye Olde Trip to Jerusalem の灯りも、そんなふうに夜の中に浮かんでいた。

ノッティンガム城の下にあるYe Olde Trip to Jerusalem
ノッティンガム城の真下にある Ye Olde Trip to Jerusalem。Photo by HASEGAWA, Koichi

「古きエルサレムへの旅」という名前

このパブの看板には、1189年という年号が掲げられている。
その由来には諸説あるが、この年号を見るだけでも、想像は中世へ向かっていく。

1189年といえば、イングランド王リチャード1世、いわゆる獅子心王の時代である。
第三次十字軍へ向かう時代の空気を思うと、「エルサレムへの旅」という名前には、不思議な重みが宿る。

もちろん、現在のパブをそのまま中世の宿として見ることはできない。
建物も、営業の形も、長い年月の中で変わってきたはずだ。
それでも、この名前と場所には、かつての旅人たちを想像させる力がある。

道中の宿。
夜に灯る明かり。
酒を飲み、身体を休め、翌朝また旅へ出る人々。
そうした古い旅の時間が、この場所にはよく似合う。

岩山と一体になったパブ

Ye Olde Trip to Jerusalem の魅力は、外観だけでは終わらない。
中へ入ると、そこには普通のパブとは少し違う空間が広がっている。

建物の一部は、岩山と一体になっているように感じられる。
壁には岩肌が見え、奥へ進むと、洞窟の中に入っていくような感覚がある。

ノッティンガム城
ノッティンガム城。Photo by HASEGAWA, Koichi

古い木材、石、岩肌、低い天井、薄暗い灯り。
そうしたものに囲まれていると、パブにいるというより、歴史の裏側へ入り込んだような気分になる。

夜の散歩の面白さは、こういうところにある。
昼間なら観光地として見てしまう場所が、夜になると、もう少し個人的な記憶として近づいてくる。
説明よりも、空気の方が先に届く。

Ye Olde Trip to Jerusalemの店内
パブの店内へ入る。Photo by HASEGAWA, Koichi

奥へ進むと、さらに不思議な空間が続いている。
どこまでが建物で、どこからが岩なのか。
この奥は城へ続いているのではないか。
そんなことを考えながら歩いてしまう。

Ye Olde Trip to Jerusalemの店内を歩く
岩山と一体になったような店内を歩く。Photo by HASEGAWA, Koichi

歴史の中で一杯飲む

店内を歩いた後は、やはり一杯飲みたくなる。

イギリスのパブは、旅先で少しだけその街の日常に触れられる場所だと思う。
観光名所を見るだけでは分からない空気がある。
地元の人の声、グラスの音、木のテーブル、壁に掛けられた古いもの、少し暗い照明。

Ye Olde Trip to Jerusalem で飲む一杯には、この場所ならではの余韻がある。
ただビールを飲むのではなく、城の下の岩山に抱かれた古い空間で、長い時間の中に腰を下ろしているような感覚がある。

Ye Olde Trip to Jerusalemでの食事
歴史あるパブで過ごす時間。Photo by HASEGAWA, Koichi

かつてこの場所を訪れた旅人たちは、どんな夜を過ごしたのだろう。
十字軍の時代、ロビンフッドの伝説、中世の旅人。
それらを直接結びつけるのは、もちろん想像の世界である。

けれども旅には、その想像が許される瞬間がある。
目の前に古い場所があり、夜があり、灯りがある。
それだけで、過去は少しだけ近くなる。

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