旅する美術史:ストラスブール大聖堂を歩く ロマネスクとゴシックが交わる中世建築の傑作

ゴシック建築の至宝――ストラスブール大聖堂の威容

ストラスブールの旧市街を歩いていると、不意に建物のあいだから巨大な石の壁面が現れます。
その瞬間、この町において大聖堂がどれほど圧倒的な存在かを思い知らされます。
この聖堂は、正式にはノートルダム大聖堂
ストラスブールの象徴であり、ヨーロッパを代表するゴシック建築のひとつです。

とりわけ印象的なのは、高さ142メートルに達する尖塔です。
中世の建築物としては驚異的な高さで、完成後しばらくのあいだ世界でもっとも高い建築のひとつとされました。
実際に広場で見上げると、その高さは数字以上の迫力を持って迫ってきます。

ストラスブール大聖堂の威容。 Photo by HASEGAWA, Koichi

この大聖堂の建設が始まったのは1176年、完成は1439年
つまり、完成までには数百年の時間がかかっています。
この長い建設期間こそが、ストラスブール大聖堂を特別な存在にしている理由のひとつです。
建築様式は固定されたものではなく、時代の変化とともに少しずつ姿を変えながら、この巨大な建築をつくり上げていったのです。

外観の赤みを帯びた色合いも、この大聖堂の大きな特徴です。
これはヴォージュ山脈の砂岩によるもので、灰色の石造建築とは異なる温かさと重量感を生み出しています。
朝、昼、夕方で石の表情が変わるのも面白く、時間帯によって建物の印象がかなり違って見えます。

彫刻で覆われた正面ファサード

ストラスブール大聖堂の正面に立つと、まず圧倒されるのは、その装飾の密度です。
西側ファサードは、まるで石のレースのように見えるほど繊細な彫刻で覆われています。
近づいて見ると、人物像、聖書的モチーフ、装飾文様が隙間なく組み込まれ、建築というより巨大な彫刻作品のようにも感じられます。

彫刻で覆われた大聖堂正面。 Photo by HASEGAWA, Koichi

ゴシック建築の魅力のひとつは、こうした装飾が単なる飾りではなく、建築全体の思想と結びついているところです。
天に向かう垂直性、光を受ける表面、そして物語を刻んだ彫刻。
ストラスブール大聖堂の正面は、それらがひとつの巨大な視覚体験としてまとまっています。

装飾の細部も見応えがある。 Photo by HASEGAWA, Koichi

中世の人々にとって、こうした彫刻は単なる美ではなく、聖書や教義を視覚的に伝える役割も担っていました。
だからこそ、この正面ファサードは「建築の表紙」のようなものでもあります。
文字を読まなくても、石が物語ってくる。
それが大聖堂建築の面白さです。

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