アートコラム:文豪が絶賛したフェルメールの『デルフトの眺望 』の原風景を訪ねて

はじめに

ヨハネス・フェルメール(1632–1675)の手による傑作『デルフトの眺望』(1660-61)。この作品は、穏やかな陽光と空気が満ちるオランダ・デルフトの街を鮮やかに描き出し、私たちを時を超えた旅へと誘います。この絵に秘められた背景や美しいディテールをひも解きながら、フェルメールが愛したデルフトの街をご紹介します。次回のオランダ旅行の計画に、ぜひ加えてみませんか?

Shino
Shino
フェルメールの描いた光を生で浴びてみたいですねー!
デルフトの眺望 (1660-61) マウリッツハイス美術館

デルフトの場所

1. 『デルフトの眺望 』(1660-61): 文豪プルーストも賞賛した美しさ

デン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館

『デルフトの眺望』は、絵画史上「最も美しい風景画」と讃えられるフェルメールの名作。その静謐で詩的な光景は、見る者を一瞬で魅了します。この傑作は、オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館に所蔵され、フェルメールの作品が3点も並ぶ貴重なコレクションのひとつです。美術館でじっくりとその魅力を堪能した後、実際のデルフトの街並みを巡る旅もまた、特別な体験となるでしょう。

Shino
Shino
実際の作品と描かれた場所を訪ねるのはとてもいい絵画体験になりますね!いつか実現させたいですー!

20世紀を代表する作家であるマルセル・プルーストが『失われた時を求めて』で、「それだけで自足した美しさを備えている」と称えたのは有名です。さあ、その美しさに迫っていきましょう。

2.『デルフトの眺望』の細部を解説

『デルフトの眺望』は、スヒー運河の対岸からデルフトの南側を見渡した視点で描かれており、まるで高い窓から街をそっと見下ろしているような感覚を味わえます。フェルメールといえば室内画で知られていますが、この作品は数少ない風景画として彼の画業の中でも特別な輝きを放っています。

巧みな光の描写で知られる彼の技術は、この風景画においても見事に活かされ、街並みが穏やかな光に包まれる情景は、一瞬の静けさと永遠性を併せ持つような魅力を湛えています。

2-1. 朝日があたる建物の美しさ

画面中央に描かれたスヒーダム門の時計は、時刻を7:10に刻んでいます。このことから、作品が描き出すのは、夏の早朝、静寂に包まれたデルフトの一瞬であることがわかります。やわらかな朝の光が空を染め、街の佇まいを優しく浮かび上がらせています。

フェルメールが構えたこの視点は、スヒーダム港。その中心に堂々と立つスヒーダム門の時計台から右手に目をやると、中世の風情を今に伝える二つの塔がそびえるロッテルダム門が見えます。古い煉瓦の温かな赤みが、朝の光に照らされて美しく輝き、デルフトの歴史を静かに語りかけてくるかのようです。

この古い煉瓦の表現がとても綺麗ですね。

Shino
Shino
フェルメールの描く煉瓦がとてもステキですね。ジロジロ見てみましょう!

画面の奥には、朝日に照らされたデルフト新教会の尖塔が見えます。ここはフェルメールが洗礼を受けた場所であり、その尖塔がやわらかな朝の光を浴びて輝く様子は、まさに彼の筆さばきが光と空間を捉える卓越した技法の証です。また、画面のさらに奥に、その尖塔越しにわずかに見えるのが、フェルメールが眠る旧教会の塔です。

画面には、当時オランダの繁栄を支えた東インド会社の倉庫も描かれています。世界を舞台にした交易の拠点となっていたこの建物がデルフトにも存在したことに、歴史の重みが感じられます。

フェルメールは構図に微妙な変化を加え、配置を工夫することで、画面奥の建物群を朝日に照らしながら、空間の奥行きと街の美しさを見事に表現しています。この作品に込められた細部の配慮が、フェルメールの天才的な感性を一層引き立てているのです。

2-2. 息を呑む美しさで描かれた水面の表現

この絵画の最大の美しさは、なんといっても水面の表現にあると思います。静寂な早朝の空気がそのまま水に宿ったかのような、この穏やかな水面は、時間のゆったりとした流れを象徴しているかのようです。人々が活動を始める前の静けさの中で、時は淡々と、ゆるやかに流れている――そんな時間の静かな存在感が水面に映し出されています。

フェルメールは、この静けさを「グレーズ(グラッシ)」と呼ばれる技法によって表現しました。薄く重ね塗りすることで、透明感と奥行きが生まれ、まるで水面が本当に光を吸い込み、反射しているかのように見えます。フェルメールが巧みに操るこの技法によって、風景画の中に静かに息づく水の存在が、一層深い印象を与えてくれるのです。

Shino
Shino
この水の描かれ方がとっても綺麗ですね。オランダの空気感もとても伝わってきますね。

2-3. ニシン漁船と水面からの光の反射

画面左手には、2隻のニシン漁船が描かれています。マストが修復中に見えることから、これもまた夏の風景を示唆していますが、正確な日にちは様々な説があるようです。

ここで特筆すべきは、フェルメールならではの光の表現です。彼は室内画でも光を巧みに操り、点のように置かれた光の反射で空間に奥行きと透明感をもたらします。この作品でも、漁船に落ちる水面からの光の反射が繊細に描かれており、穏やかな水面に美しい輝きが生まれています。フェルメールの光の魔術が、静かな朝のデルフトの風景にさらに深みを加えているのです。

Shino
Shino
この船のキラキラした部分が、とても綺麗ですね。朝日が水に反射して、それが船にあたっています。素晴らしい表現!
※ 作品をじっくり見るのにオススメなのが、Google Arts & Culture。 フェルメールのこの美しい作品もじっくり細部まで見れます。

フェルメールの作品をより深く理解するためのおすすめの本をいくつか紹介します。これらの書籍は、彼の技法、テーマ、そして彼が生きた時代背景に迫る内容が盛り込まれています

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街の中心マルクト広場

3. フェルメールの街デルフトを歩く

フェルメールは生涯のほとんどを生まれ故郷のデルフトで過ごしました。アムステルダムからは、電車で約1時間ほどの距離にある街です。旧市街も歩いて散策できるほどのサイズ。

Shino
Shino
フェルメールが描いた街を実際歩いてみましょう!

街の中心はマルクト広場

この広場を出発点として散策を始めてみましょう。彼の住んだ旧市街の街の空気を吸いながら、その雰囲気を肌で感じてみます。そうすると、デルフトを訪れた後、彼の作品の見方が更に深まるかもしれません。

マルクト広場をぐるりと回ってみよう

デルフトの眺望が描かれた場所に行ってみよう。フェルメールが眺めた街の景色を彼と同じ目線から眺めてみるのもまた格別。

訪れるのがもし夏の日の朝だったら、フェルメールが作品に描いた夏の太陽の光が、同じようにあなたの見ているデルフトの街を照らすことでしょう。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi and Shino

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