はじめに
夜の散歩シリーズ、今回はイタリア。ヴェネツィアの夜を共に歩きます。
ヨーロッパ各地には中世の面影を残す街が数多く存在しますが、その中でもヴェネツィアは特別な魔法をかけてくれます。
日中、陽光が水面に反射し、街並みがまるで絵画のように輝くこの街。しかし、太陽が沈み、色彩が闇に溶け込むとき、ヴェネツィアは異なる顔を見せます。それは、誰もが一度は夢に見たような、幻想の世界です。
夜のヴェネツィアは、ただ静かで美しいだけではありません。その静寂がまるで中世の時代へと誘うかのよう。細い路地に響く自分の足音、運河をそっと流れる水の音、そのすべてが古の記憶を呼び覚ますような感覚を与えてくれます。
ヴェネツィアの夜はとても静か
沢木耕太郎の『旅のつばくろ』という紀行文に、「小樽の夜はヴェネツィアの夜を連想させる」というくだりがあります。昼間に沢山いる観光客が、夜になると驚くほど少なくなるところが、小樽とヴェネツィアは似ているといいます。
僕はこのくだりを読んで小樽という街に行ってみたくなりました。というのも、ヴェネツィアの夜の良さは夜の小樽と一緒で「静寂」という点にあるから。
僕としてはヴェネツィアほど夜の静けさが待ち遠しい場所はないです。
ヴェネツィアの夜の静けさの理由
ところで、ヴェネツィア本島内では自動車の音を聞くことはありません。この街では、すべての移動手段が船やゴンドラによって支えられています。車や電車の喧騒がないことで、ヴェネツィア特有の静寂が生まれ、魅惑的な雰囲気を醸し出しています。
夜のヴェネツィアを歩くと、まるで時が止まったかのような不思議な感覚に包まれます。街の中にいながら、耳に届くのは波のささやきや、ゴンドラが水面を静かに漕ぐ音、そしてかすかな足音だけ。この静けさは、まるで中世の時代に迷い込んだかのような夢の世界に誘ってくれます。
もしあなたの宿泊先が小さな運河沿いにあるなら、夜の静寂の中に響くのは、水をゆっくりと切るゴンドリエーレの櫂の音だけでしょう。それは、他のどの街でも味わえない特別な静けさであり、水と夜が優しく語り合う神秘的な瞬間を演出しています。
夜の静寂が街を包んでいます。
ヴェネツィアの夜を歩いてみる
ある冬の夜、私はホテルからサン・マルコ広場へと足を運びました。その日、夕暮れ時から霧が広場を包み込み、広場全体が幻想的な雰囲気に包まれていました。霧に覆われたサン・マルコ広場は、まるで時間がゆっくりと止まったかのよう。
霧が漂わせる湿気には、まるでこの街の長い歴史が染み込んでいるようで、空気そのものに重みを感じました。その場にいるだけで、過去と現在が交錯する瞬間に立ち会っているような不思議な感覚。まさに、その夜の霧は、ヴェネツィアの歴史を背景にした最高の演出でした。
ナポレオンが絶賛した世界一美しい広場:サン・マルコ広場
この広場は共和国の歴史の中心でした。まず宗教の中心であるサン•マルコ寺院があります。この玉ねぎ型の屋根が特徴な建築は、東方の様式で、ビザンチン建築で設計されています。
政治の中心であるドゥカーレ宮殿は、共和国の政庁でした。そのトップにいた総督ドージェの公邸でもありました。
このサン・マルコ広場の計算されたデザイン効果は、あたかも劇場の中に立っているかのような感覚を人に起こさせます。建物から溢れ出る光も、この劇場に視覚効果を与えていて、とても美しい。
ナポレオンが「世界で最も美しい広場」と絶賛したと有名です。
サン・マルコ広場に到着する頃には、夜が次第に深まっていきます。昼間の賑わいが嘘のように、観光客たちは去り、近くのホテルに宿泊している人々や地元の住民がぽつぽつと歩く静寂なひとときが訪れます。
ドゥカーレ宮殿やサン・マルコ寺院といった歴史的な建物は、華やかなライトアップに飾られることもなく、夜の静けさの中でひっそりと佇んでいます。この落ち着いた雰囲気は、逆に歴史の重みを一層際立たせる瞬間でもあります。
私自身、京都や奈良の寺院や歴史的建造物、そして控えめなライトアップの庭園が静かに夜を迎える様子が好きです。暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる古い建物には、言葉にできない深い味わいが感じられます。
ヴェネツィアの建物も同様です。歴史の重厚さを纏った建物たちが、静かに夜の闇に溶け込んでいく姿には独特の趣があります。
サン・マルコ広場は海に近い場所にあります。波の音を聞きに行ってみましょう。夜のヴェネツィアに響く海のささやきが、心に深く染み入ることでしょう。
ふと見ると、ゴンドリエーレたちが後片付けをしている姿が目に入ります。
海を眺めると、ヴァポレット(水上バス)が帰路につく人々やホテルに戻る観光客を乗せて通り過ぎていきます。こうして、ヴェネツィアの夜はさらに深まっていくのです。
ヴェネツィアに行く機会があれば、是非本島内に滞在するのをオススメします。夜もふけてきた頃合いに、ホテルから散歩に出る経験は、静かな夜のヴェネツィアに浸れる事間違いないです。
夜のヴェネツィアは、昼間の美しさとは違う風情が漂います。
夜の散歩にオススメのホテル
サン・マルコ周辺の散歩にオススメのホテルは、やはり本島のサン・マルコ広場に近いホテルになります。
コロンビーナ ホテル:サンマルコへ徒歩圏内で、オススメのホテル。実際宿泊したので印象深いですが、サン・マルコ広場へは歩いて少しの距離で、広場の喧騒から少し静かな道を歩いて、小さな運河を見ながらホテルへ辿り着きます。僕が妻と泊まった部屋は、運河沿いの部屋で、バルコニーからは運河を見下ろす感じになります。
専門をヴェネツィア美術にしたこともあり、ヴェネツィアへは何度か行っていますが、予算を抑えたい人にはイタリア本土にあるメストレ地区に安い宿が多いのでオススメ。電車ですぐに本島に渡れます。ただ、夜のヴェネツィアを満喫するには、高いですが本島内部のホテルがオススメです。
高級ホテルも紹介しておきます。
ホテル ダニエリ ラグジュアリー コレクション ホテル ベニス:ヴェネツィアといえばダニエリです。数々の映画でも使用されたヴェネツィアを代表するホテルの一つです。サン・マルコ広場にも近いので、ロケーションもバッチリですね。
ヴェネツィアをリッチに満喫してい人には、絶対オススメのホテル。
ヴェネツィア関連のオススメ本
『ローマ人の物語』で有名な塩野七生さんの代表作の一つである『海の都の物語』。なぜヴェネツィアが千年も続いたのか、そこで花開いた文化などがわかりやすく理解できます。
ヴェネツィアの文化面、主に芸術での知識を深めたい方にオススメなのが、『ヴェネツィア物語』です。
最後に好きなフォトグラファーJean-Michel Bertsの写真集。雰囲気があってとってもいいですよ。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi and Shino
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