写真紀行:モンマルトルから眺めるパリの夕方。光が灯る直前の風景。

パリ・モンマルトルの場所

麗しのパリを、丘の上から眺める

ある年の冬の午後、モンマルトルの丘からパリの街を眺めた。
寒さが頬に残り、空はどこまでも鈍い灰色。冬のパリだ。

ふとカメラを構えると、街灯の上に鳥が止まっていた。
ひとつの光を、ひとつの影が見つめている。

「おー、お前も冬のパリを眺めてるか」

鳥は何も言わない。
こちらも言葉を増やさず、しばらく同じ方向を見た。


モンマルトルからの眺め

夕方に近い時間。
まだ街に光が入りきらないころ合いで、パリは静かに“夜の準備”をしているようだった。
この時間帯を過ぎると、街は合図を待っていたかのように一斉に輝きはじめる。


モンマルトルは階段が多い

階段の多いモンマルトルを下る。
振り返ると、丘の上にサクレクール聖堂が白く浮かび、空の鈍色とゆっくり混ざっていく。

このあたりを歩くと、ふと思い出すのが
映画『アメリ』(2001)(原題:Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain)だ。
舞台はモンマルトル。小さな偶然ややさしい嘘が、街の呼吸と一緒に進んでいく。
音楽もまた、パリの空気をそのまま閉じ込めたように“パリらしい”。

そしてモンマルトルといえば、画家ユトリロの名を思い出す。

ユトリロは、モンマルトルを描いた画家だ。
アルコールに依存し、溺れながら生きた彼は、いわば禁酒療法として絵を描きはじめる。
だが皮肉にも、いちばん深く沈んでいた時期──「白の時代」と呼ばれる作品群が、後に高く評価される。


モンマルトルの丘に建つサクレクール

ユトリロのモンマルトル。
なかでも印象に残るのは、冬のモンマルトルだ。
寒さが街の輪郭を硬くし、色は淡く、音は遠くなる。
けれど、その静けさの中でこそ、街はむしろ“濃く”見える。

そして、アルコールに溺れていた「白の時代」に生まれた絵が評価されたという事実。
うーむ……それって、示唆に富むよな。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

 

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