はじめに
今回の舞台は、たくさんの旅人が降り立つパリ北駅。国際列車が多数乗り入れるインターナショナルなターミナル駅だ。
パリの北の玄関口である北駅
パリ北駅には沢山の列車が入線する。そう、ここはたくさんの旅人が交差するところ。
ロンドンから英仏海峡トンネルを通って高速鉄道であるユーロスターが発着したり、ブリュッセルからは高速鉄道タリス、そのほかアムステルダムやドイツなどから多くの国際列車が乗り入れる。
旅情あふれる駅で、いつも駅構内や周辺はたくさんの旅人で賑わっている。
駅構内を見ると、大きな荷物を沢山抱えた家族連れ旅行客が小さな子供たちを連れて歩いている。
目をほかに移すとロンドンから到着したのであろうか、スーツに身を包んだビジネスマンが颯爽と僕の前を横切っていく。その後ろにはパリの家族に会いに来たであろう家族が出迎えの老夫婦を見つけて笑顔で手を振っている。
様々な国の人がいろいろな目的でこの駅に降り立つ。
もうだいぶ前になるが、僕のはじめてのパリも、ここ北駅から始まった。ロンドンからパリにユーロスターを使って到着。北駅近くのホテルに泊まったのも懐かしい。友人と待ち合わせしたり、近くで食事をしたり。先日も妻とロンドンからパリへ移動した時にここを使った。
この駅は、いつ使っても色々な思い出が蘇ってきて、僕にとっては思い出のある駅だ。いろいろな人とここで出会ったり別れたり。
北駅は旅人がたくさん交差する場所だ。
北駅の向かいにあるビストロでの夏の思い出
ちょっとドラマに出てきそうなステキな夫婦に出会った話。
僕はある夏の日の夕方、北駅の向かいにあるビストロのテラスで、道行く人々を眺めながら夕飯を取っていた。とても気持ちのいい夏の日の夕方であった。
店のウェイターと話をしていたら、ちょうど日本人の老夫婦が入店してきたのが横目に見えた。
ウェイターが笑顔で応対する。「ボンソワール、マダムとムッシュ。お二人ですね。店内とテラス席のどちらがいいですか?」
「いい夜だから、私達もテラスで食事をしましょうよ」とご婦人。テラスで気持ちよく食事をしていた僕が目に入ったのであろうか。ご婦人はご主人をテラス席に誘う仕草をする。
「日本人同士だからここの席をどうぞ」とウェイターはニッコリ僕の隣にその老夫婦を案内してきた。
「隣すみません。」とご主人。
「どうぞどうぞ」と僕。
「日本からご旅行ですか?」と話かけて、和やかな会話を試みてみる。何か品のあるステキなご夫婦だったため、お話がしてみたかった。
「ええ、パリに来るのは、40年振りになの。当時、この北駅の近くにあった小さなホテルに主人と泊まりまして。ちょうどこのビストロに寄る前に、まだあのホテルがあるか見に行ってきたところなのよ。」
「そうそう、そのホテルの名前は覚えてなかったんだけど、場所だけはうろ覚えで覚えてましてね。記憶を頼りに妻と今行ってきたところなんです。」とご主人。
40年ぶりに夫婦で訪れたパリ。何か心がほっこりする話だ。
「40年ぶりのパリなんですね!そのホテルはまだありました?」
「ええ、当時のままの佇まいでありましたわ。何も変わってなかったわね」とニッコリご夫婦で笑顔を交わす。
「素敵な話ですね」と僕。
とても二人の様子が微笑ましくて、しばし僕はご夫婦が話をしているのを眺めていた。
するとご主人がその40年前に泊まったホテルの話をしてくれる。「北駅の近くと言えば、映画で有名な北ホテルのことですか?」と聞いてみたら、違うとのこと。そのホテルは北駅からすぐの場所にあるごく普通のホテルだそうだ。そういえば、北ホテルは北駅からはそこし離れるか。
「ホテルに寄ってみたら中をみたくなってね。妻とホテルの中を覗いていたら、ちょうどホテルの支配人が私どもに気がついてくれて。それで外に出てきてくれましてね。昔ここに泊まったことがあって、妻と40年ぶりにパリに来たから懐かしくなって寄ってみたんです、と昔話を話ししてたら、なんと当時泊まった部屋まで見せてくれましてね。」
「ほんと、当時のままで嬉しくなっちゃって。」奥さんも優しい笑顔で懐かしんでいるようだ。
「パリに乾杯ですね」とご主人。
3人でパリの夜に乾杯。
まさに一期一会の出会いであったが、この夜このご夫婦の40年ぶりの夜に一緒に乾杯できたことは、僕にとっても素敵な夜の思い出として残っている。
今もパリ北駅に着いたら真っ直ぐにメトロに向かわずにいったん外に出ることがよくある。外に出てそのビストロを見に行くためだ。
僕にとって、このパリ北駅の向かいにあるビストロが、いつまでも思い出の場所になっている。
パリ北駅は旅人が交差する場所だ。
Photo and Writing by Hasegawa, Koichi
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