ノッティンガム夜散歩|城の下に灯る古いパブとロビンフッドの影

ロビンフッドの影

ノッティンガムの夜を歩くと、やはりロビンフッドのことを思い出す。

シャーウッドの森、ノッティンガム城、圧政に立ち向かうアウトロー。
ロビンフッドの物語は、歴史というより伝説である。
けれども、この街では、その伝説が風景の中に残っている。

ノッティンガムにあるロビンフッド像
ノッティンガムにあるロビンフッド像。Photo by HASEGAWA, Koichi

城は権力の側にある。
森は、そこから逃れる者たちの側にある。
ロビンフッドの物語には、その対比がある。

ノッティンガム城の下に立ち、古いパブに入り、夜の街へ出る。
そうすると、物語は本の中だけのものではなく、街の地形や建物の配置と結びついて見えてくる。

伝説が生き残る場所には、理由があるのだと思う。
そこには、物語を受け止めるだけの風景がある。
ノッティンガムには、その風景がある。

ノッティンガムの夜を歩く

夜のノッティンガムは、派手な街ではない。
けれども、その静けさがよかった。

古い建物の壁、石の道、店の灯り、城の影。
観光地として大きく演出された夜景とは違う。
もっと小さく、もっと近く、街の中に沈んでいるような夜だった。

ノッティンガム旧市街
ノッティンガム旧市街。Photo by HASEGAWA, Koichi

ロンドンのような華やかさではない。
オックスフォードやケンブリッジのような整った大学都市の印象とも少し違う。
ノッティンガムには、もう少し土の匂いがある。
城があり、伝説があり、パブがあり、郊外には森の記憶がある。

夜の散歩では、そうした街の個性が静かに浮かび上がってくる。
昼間には見過ごしていた建物の陰影。
店の灯りに照らされた壁。
暗がりの中で存在感を増す古い看板。

Ye Olde Trip to Jerusalem から外へ出ると、夜の空気が少し冷たかった。
城の下に灯る古いパブを振り返ると、そこだけ時間が止まっているように見えた。

古いパブが残す夜の記憶

旅の記憶に残る場所は、必ずしも大きな名所だけではない。

一軒の古いパブ。
岩山の下の灯り。
木の扉。
薄暗い店内。
ビールのグラス。
夜の石畳。
城の影。

そうした小さな断片が、あとになって旅の輪郭を作っていることがある。

ノッティンガムの Ye Olde Trip to Jerusalem は、まさにそういう場所だった。
歴史を説明することはできる。
ロビンフッドや十字軍の話もできる。
けれども、いちばん心に残るのは、夜の中に灯るその佇まいだった。

古い場所には、時間を抱え込む力がある。
そこへ夜に訪れると、その力は少しだけ強くなる。

ノッティンガム城の下に灯る古いパブ。
その光を見たことを、たぶん僕は長く覚えている。

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつる文章を書いています。

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