夜の散歩シリーズ:ロンドン、テムズ川沿いの灯りを歩く

夜のタワーブリッジ(ロンドン)

ウェストミンスター宮殿とビッグベン

ロンドンを代表する風景のひとつが、ウェストミンスター宮殿とビッグベンである。
テムズ川越しにその姿を眺めると、この街に来たのだという実感が静かに湧いてくる。
昼の風景としても印象的だが、夜になるとその存在感はいっそう深まる。

夕暮れ時のビッグベン。街灯にも光が灯りはじめた。

橋の上から、あるいは川沿いから眺める宮殿と時計塔は、ロンドンの夜景の中心のように見える。
灯りを受けた建築の輪郭は明瞭でありながら、同時にどこか夢のようでもある。
ウェストミンスター宮殿は1834年の大火で大半を失い、その後に現在の姿へ建て替えられた。
そうした歴史を知っていると、この壮麗な建築がただの名所ではなく、この国の記憶そのもののように感じられてくる。

夕暮れのテムズ河畔を歩く。

このあたりから川沿いを歩き始めると、ロンドンの夜がだんだん自分の足の速度に馴染んでくる。
観光地を巡るというより、都市の時間の中へ入っていく感覚に近い。

大英帝国の記憶を映すタワーブリッジ

テムズ沿いを東へ進み、タワーブリッジへ向かう。
ロンドンの橋はいくつもあるけれど、やはりこの橋の姿は特別だ。
二つの塔を持つその輪郭は、夜の空の中でいっそう印象的に浮かび上がる。

タワーブリッジと夜景。

タワーブリッジは1894年に完成した。
建築家サー・ホーレス・ジョーンズの設計によるこの橋は、大英帝国の絶頂期に生まれた建築であり、その姿には当時の自信と誇りのようなものが今も残っている。

二つの塔は、ただ機能のためだけにあるのではなく、どこか城のような威厳を備えている。
そのためだろうか、この橋を夜に見ると、ロンドンという都市の力と、古い帝国の記憶とが、ひとつの風景の中で重なって見えてくる。

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二つの塔は上部の遊歩道でつながれている。

この橋が架けられた背景には、ロンドン東部の開発と商業の活性化があった。
近くにはロンドン港があり、大型船が往来するこの水域では、固定橋ではなく開閉式である必要があった。
そうした技術的な要請と、帝国都市ロンドンの美意識とが結びついて、この独特の橋が生まれた。

夜のタワーブリッジを見ていると、ロンドンの光景はただ美しいだけではなく、歴史そのものによって形づくられているのだと感じる。
橋のまわりに広がる灯りが川面に映り、その揺れまでもが、この街の時間を映しているようだった。

夜のテムズ周辺には独特の雰囲気がある。

ロンドンの夜を歩いていると、名所を見ているという感覚より、街の呼吸に触れているという感覚の方が強くなる。
テムズ川は、そのための一番よい場所かもしれない。
川に沿って歩くだけで、ロンドンの歴史、建築、光、そして今の都市の気配が、自然とひとつにつながっていく。

また別の夜にも、この川沿いを歩いてみたい。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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