マドリード王立サン・フェルナンド美術アカデミーとは? ゴヤゆかりの美術館を旅する

サン・フェルナンド・アカデミーでゴヤに触れたら、プラド美術館所蔵のゴヤの代表作品を是非。 美術館の外にはゴヤの彫刻がある。

ゴヤの逆襲――落ちた学校に教授として戻る

当時のスペインで画家として出世していくには、王立アカデミーで認められることが大きな意味を持っていました。
コンクールで評価され、アカデミー内で地位を得て、宮廷画家へとつながっていく。
それは、画家にとって王道のサクセスコースだったのです。

ところが、ゴヤは若い頃、このアカデミーの奨学生試験に二度挑みながら失敗しています。
若き日の彼にとって、ここはまず「受け入れられなかった場所」でした。

それでも彼はそこで終わりませんでした。
地方で経験を積み、やがて頭角を現し、三十代半ばで正会員となり、のちにはこのアカデミーで教える立場にまで進みます。
若いころに落ちた学校へ、後に教授として戻る。
この経緯だけでも、ゴヤの人生にはどこかドラマがあります。

ゴヤにとって、王立アカデミーでの評価は単なる肩書きではなかったはずです。
それは、ベラスケスに連なるようなスペイン画壇の頂点へ向かう道でもありました。
彼がこの場所で感じたであろう誇りや、若い頃の記憶のよみがえりを想像すると、少し胸が熱くなります。

しかも、このアカデミーでは後にピカソやダリも学びます。
そう考えると、ここは単にゴヤ個人の舞台というだけでなく、スペイン美術そのものの中枢だったと言ってよいでしょう。

王立サン・フェルナンド美術アカデミーで見るゴヤ

この美術館を訪れたら、やはり見逃せないのはゴヤ作品です。
館内にはゴヤの重要な作品が収蔵されており、その中には自画像や、マヌエル・ゴドイの肖像のような代表作も含まれています。

大きな美術館では有名作の周囲に常に人が集まりますが、サン・フェルナンドでは、比較的落ち着いた空間の中でゴヤと向き合えるのが魅力です。
宮廷画家としての鋭い観察眼、人物の表情ににじむ緊張感、そして画面に漂う独特の気配。
そうしたものを、より近い距離で味わうことができます。

プラド美術館でゴヤの大作群を見る前、あるいは見た後に、ここであらためて彼の人物画と向き合う。
その順番で見ると、ゴヤという画家の多面性がいっそうよく見えてくるように思います。

プラド美術館の外に立つゴヤ像。Photo by HASEGAWA, Koichi

鑑賞後はマドリードの街へ

王立サン・フェルナンド美術アカデミーは、マドリード中心部のプエルタ・デル・ソルにも近い場所にあります。
この一帯は、マドリードでもっとも活気のあるエリアのひとつで、広場の周辺にはカフェやバルが並び、人の流れが絶えません。

美術館でゴヤを見たあと、そのまま街へ出られるのもこの場所の魅力です。
重厚なスペイン美術に触れたあとに、にぎやかなマドリードの通りへ戻る。
その落差がまた楽しい。

プエルタ・デル・ソル広場。Photo by HASEGAWA, Koichi

この界隈では、マドリードらしいバル文化も楽しみたいところです。
スペインのバルは、朝はカフェのように、昼は軽食の場として、夜はビールやワインとタパスを楽しむ場として機能しています。
気軽で活気があり、街の呼吸にそのまま触れられるのがいい。

個人的に印象に残っているのは、Casa Labra のような昔ながらの立ち飲みの空気です。
ビールとタパスを片手に、マドリードの人々に混じって過ごす時間は、美術館の静けさとはまったく違う街の魅力を感じさせてくれます。

最後に――ゴヤを知るための、もうひとつの美術館

マドリードでゴヤを見るなら、まずプラド美術館を思い浮かべる人が多いでしょう。
それはもちろん間違いではありません。
けれど、ゴヤと制度、ゴヤと出世、ゴヤとアカデミーという視点から彼を見たいなら、王立サン・フェルナンド美術アカデミーはとても重要な場所です。

若い頃に門を叩きながら受け入れられず、それでも後年には教授として戻ってくる。
この場所には、ゴヤの芸術だけでなく、彼の人生の逆転劇そのものが刻まれています。
しかも、作品をゆっくり見られる静かな空間もある。
ゴヤ好きにとっては、まさに見逃せない場所です。

マドリードを旅する機会があれば、プラドだけで終わらず、ぜひこのアカデミーにも足を運んでみてください。
ゴヤという画家の姿が、少し違った角度から立ち上がってくるはずです。

Photo and Writing by HASEGAWA, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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