夜の北京紀行:什刹海(シーチャーハイ)に浮かぶ月

古い街並みと現代の賑わいが交差する場所

北京滞在二日目の夜、友人が「本場の北京ダックを食べよう」と言って僕を什刹海へ連れて行ってくれた。ここは、湖や古寺の気配を残しながらも、現代的なバーやレストランが並ぶ人気エリアで、欧米の旅行者も多く見かけた。歩いてみると、たしかに北京の中でもかなり面白い場所だと感じる。

昔ながらの民家が残る一方で、観光地としてかなり洗練されていて、北京の「古い顔」と「新しい顔」がかなり露骨に隣り合っている。僕はその混ざり方に少し戸惑いも覚えた。友人も「前よりだいぶ観光地化された」とこぼしていて、地元の人にとっても変化の早い場所なのだろうと思った。

什刹海は北京でも人気の高い夜のエリア。Photo by HASEGAWA, Koichi

場所

食事をしているあいだ、僕の中の北京の印象は、正直なところまだそれほど上向かなかった。にぎやかで、面白くはあるけれど、どこか観光地として整いすぎている気もした。ところが、外へ出たとき、景色が一変した。

湖の上に浮かぶ月

食事を終えて外へ出ると、湖の上に大きな月が昇っていた。

その瞬間、さっきまでの喧騒や違和感がふっと引いて、ただ「古都の湖に月が浮かんでいる」という光景だけが目の前に残った。僕はそこでようやく、この街にも自分が求めていた詩情があるのだと感じた。

月が水面に映り、夜気がやわらぎ、湖のまわりの空気が少しだけ静かになる。ああ、北京も悪くない。そんなふうに思えたのは、その一瞬の風景のおかげだった。

もちろん、その余韻は長くは続かない。少し歩けばまたクラクションが鳴り、現代都市の北京へと引き戻される。けれど、だからこそ、この一瞬の風情がいっそう印象に残るのかもしれない。今の北京では、こうした断片的な美しさを拾いながら夜を歩くのが、いちばん面白いのではないかと思った。

什刹海の夜をどう楽しむか

什刹海の夜は、あらかじめ厳密なルートを決めて歩くというより、湖畔を中心に、少しずつ寄り道を重ねながら楽しむのが合っているように思う。

古い路地を抜けて湖へ出る。夕暮れから夜にかけて水面の色が変わっていくのを眺める。どこかで食事をし、食後にもう一度湖畔を歩く。もし気になるバーやカフェがあれば、そこで一息つくのもいい。そして最後に、湖の上の月や夜気のやわらかさを感じながら、静かに散歩を終える。

什刹海の魅力は、歴史と現代がきれいに調和していることではなく、その二つが少しぎこちなく同居しているところにあるのかもしれない。その違和感も含めて、北京らしい夜の表情だと思う。

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