旅する美術史:ゴッホ《アルルの跳ね橋》を訪ねて 南仏の光、日本への憧れ、故郷オランダの記憶

復元されたアルルの跳ね橋

ゴッホが夢に見た南フランスの光

ある年のクリスマス、僕はゴッホゆかりの風景を求めてアルルを訪れました。
もちろん《アルルの跳ね橋》が描かれた春や夏のような光ではありません。
それでも、冬のアルルには別の魅力がありました。
街は静かで、少し冷えた空気の中に、これから祝祭を迎えるあたたかな気配が漂っていました。

アルルにはゴッホの作品を体系的に所蔵する美術館はありません。
けれどこの町の魅力は、彼が描いた原風景が今も街の中に感じられることです。
彼が2月に到着した頃、アルルにはまだ寒さが残り、雪も見えたといいます。
そこから春が来て、色があふれはじめる。
その変化の中で、彼の絵画は急激に明るさを増していきました。

《アルルの跳ね橋》は、その変化のはっきりとした証拠です。
ここには南仏の光に出会った喜びがあり、
故郷オランダを思う気持ちがあり、
さらに日本という理想郷への憧れまでが重なっています。

旅先でこの作品を思い返すと、単なる「風景画」には見えなくなります。
一枚の橋の絵の中に、ゴッホの複数の願いと記憶が重なっている。
それがこの作品の強さなのだと思います。

《アルルの跳ね橋》は、ゴッホのアルル時代の幸福な一瞬を映した作品です。
のちの激しい展開を知っている僕たちにとって、この橋の明るさはなおさら印象的に映ります。
だからこそ、この作品をきちんと見つめることは、ゴッホのアルル時代全体を理解する入口にもなるでしょう。

南仏の光を求めてアルルへ向かったゴッホ。
その夢がもっとも穏やかな形で息づいているのが、この跳ね橋のシリーズなのかもしれません。

Photo and Writing by HASEGAWA, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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