チュイルリー公園を歩く|フランス式庭園とパリ

パリを歩いていると、美術館や教会だけでなく、庭園もまた美術史の一部なのだと感じることがある。

ルーヴル美術館からコンコルド広場へ向かう途中に広がるチュイルリー公園
ここは、観光の合間に少し休むための公園であると同時に、フランス式庭園の美意識を今に伝える場所でもある。

整然と並ぶ木々、まっすぐに伸びる軸線、左右対称の構成、池や彫刻の配置。
そこには、自然をそのまま眺めるのではなく、自然を秩序ある形へと組み替えようとする意志がある。

パリの中心で、庭園を歩く。
それは単なる散歩ではない。
王権、都市、自然、美術館、そして近代絵画へとつながる時間の層を歩くことでもある。

チュイルリー公園を散策する
チュイルリー公園を散策する。Photo by HASEGAWA, Koichi

ルーヴルとコンコルド広場のあいだにある庭園

チュイルリー公園は、パリの中心部にある。
東にはルーヴル美術館、西にはコンコルド広場があり、その先にはシャンゼリゼ通り、さらに遠くにはエトワール凱旋門へと視線が伸びていく。

この場所の面白さは、庭園が単独で存在しているのではなく、パリの都市軸の中に組み込まれていることにある。

ルーヴルからチュイルリー、コンコルド広場、シャンゼリゼ、凱旋門、そしてラ・デファンスへ。
パリの東西を貫く大きな軸線の中で、チュイルリー公園は重要な位置を占めている。

公園を歩いていると、単に木々や花を楽しんでいるだけではないことに気づく。
自分の身体が、パリという都市の大きな構成の中に置かれている。
その感覚が、チュイルリー公園の魅力のひとつである。

チュイルリー公園から見るエッフェル塔
チュイルリー公園から見るエッフェル塔。Photo by HASEGAWA, Koichi

公園の中からは、エッフェル塔も見える。
ルーヴル、セーヌ川、コンコルド広場、エッフェル塔。
どの方向を見ても、パリの歴史と風景が重なっている。

だからこそ、チュイルリー公園は、ただの緑地ではない。
パリを読むための場所なのである。

ル・ノートルとフランス式庭園

チュイルリー公園を語るうえで欠かせない人物が、アンドレ・ル・ノートルである。

ル・ノートルは、ルイ14世の時代に活躍した庭園設計家であり、ヴェルサイユ宮殿の庭園を手がけたことで知られている。
彼は、フランス式庭園を完成させた人物として、美術史・造園史の中で非常に重要な存在である。

フランス式庭園の特徴は、幾何学的な秩序にある。
中心軸があり、その軸を基準に左右対称の構成が作られる。
木々は整然と並び、低木は刈り込まれ、水面や彫刻も計算された位置に置かれる。

自然は、自然のまま放置されるのではない。
人間の知性と権力によって、見渡せる形へ、支配できる形へ、秩序ある美へと整えられる。

チュイルリー公園の眺め
チュイルリー公園の眺め。Photo by HASEGAWA, Koichi

この考え方は、ルイ14世の時代の王権とも深く結びついている。
太陽王と呼ばれたルイ14世にとって、庭園は単なる楽しみの場ではなかった。
それは、自然さえも秩序の中へ組み込み、王の視線のもとに置くための空間でもあった。

フランス式庭園を見るとき、私たちは美しい花や木々だけを見ているのではない。
そこには、自然観、権力、美意識、都市設計が一体となった世界観が表れている。

イギリス式庭園との違い

フランス式庭園の特徴は、イギリス式庭園と比べるとさらに分かりやすい。

イギリス式庭園は、自然の風景に近い、ゆるやかな景観を理想とする。
曲がりくねった道、自然に見える池、起伏のある芝生、遠景を取り込む構成。
そこでは、自然を人工的に整えているにもかかわらず、あたかも自然そのもののように見せることが重視される。

一方、フランス式庭園は、人工性を隠さない。
むしろ、自然が人間の理性によって美しく秩序づけられていることをはっきり示す。
木々の列、直線的な道、左右対称の構成。
そこには、「自然を整える」という意志が明確に現れている。

どちらが優れているという話ではない。
それぞれの庭園には、それぞれの自然観がある。

チュイルリー公園を歩くと、フランス式庭園が持つ明快さを感じる。
風景は自由に広がっているようでいて、実は強い軸線と構成によって支えられている。
この秩序の感覚が、パリという都市の美しさともよく響き合っている。

シュノンソー城の庭園
ロワール地方にもフランス式庭園がある。シュノンソー城より庭園を臨む。Photo by HASEGAWA, Koichi

彫刻と噴水のある庭園

チュイルリー公園を歩いていると、彫刻や噴水が随所に置かれていることに気づく。

庭園は、植物だけで作られているわけではない。
彫刻、水面、広場、道、建築との関係によって、ひとつの総合的な空間になっている。

チュイルリー公園の彫刻
庭園内には彫刻も多い。彫刻や噴水もフランス式庭園の重要な要素である。Photo by HASEGAWA, Koichi

彫刻は、庭園の中で視線を止める。
噴水や池は、空や木々を映し、光を受け止める。
まっすぐな道を歩いていた身体は、そうした要素に出会うことで、少し歩みをゆるめる。

フランス式庭園は、ただ遠くを見渡すだけの空間ではない。
歩きながら、配置された彫刻や水面に出会い、視線を動かしながら経験する空間でもある。

チュイルリー公園では、パリの中心にいながら、そうした庭園の空間構成を気軽に体験できる。
ルーヴル美術館を訪れた後に歩くと、屋外に続くもうひとつの美術空間のようにも感じられる。

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2件のコメント

エッフェル塔が写っている写真についてご教示頂きたいことがございます。既に亡くなっていましが、私の叔父である、進藤蕃の作品に「チュイルリー公園の門」が有ります。公園のどこから見た風景か調べていましたが分かりませんでした。貴方さまのお写真が当てはまるような気がしてお便りしました。お手数でございますがご教示頂きたくお願い申し上げます。
叔父
https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10667.html
作品
https://auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/f1194429151

コメントありがとうございます。拝見した作品の門ですが、おそらく公園のシャンゼリゼ側で、コンコルド広場のオベリスクを正面に見た付近かと思われます。
間違っていたらすみません。

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