夜の散歩シリーズ:クリスマスのチューリッヒ、灯りの中の旧市街へ

チューリッヒの旧市街の夜

夜のチューリッヒ旧市街を歩く

僕は夜の街の光が好きだ。
ライトアップされた建物の美しさにも惹かれるけれど、それ以上に、街灯が落とすやわらかな光に心を引かれることが多い。

チューリッヒの旧市街の夜も、そんな光に満ちていた。
石畳の道に映る淡い灯り、建物の壁に沿って伸びる影、通りの奥に小さく揺れる光。
それらが重なって、街に静かで落ち着いた空気をつくり出している。
まるで、時間そのものが少しだけゆっくり流れているようだった。

昼のチューリッヒは、整然としていて、どこかきびきびとしている。
けれど夜の旧市街は、もっと親密で、もっと柔らかい。
細い路地を歩きながらふと振り返ると、歴史ある建物のファサードが街灯に照らされて浮かび上がっていた。
その美しさに、思わず立ち止まってしまう。

旧市街にあるさまざまな看板が印象的だった。

僕が歩いたのは、ちょうどクリスマスの夜だった。
旧市街を友人夫婦と歩いていたとき、会話に夢中で、しばらく街の灯りをきちんと見ていなかった。
けれど、ふと顔を上げた瞬間、通り全体がやわらかな光に包まれていることに気づいた。

街灯だけでも十分に美しい街なのに、そこにクリスマスの飾りつけが加わる。
窓からこぼれるあたたかな光、店先のディスプレイ、通りの上に吊られた灯り。
それぞれは控えめなのに、全体として見ると、街がひとつの静かな祝祭になっていた。

チューリッヒ旧市街の夜、クリスマスの灯り。

チューリッヒはスイス最大の都市であり、ヨーロッパ有数の金融センターとして知られている。
国際都市としての顔を持つ一方で、旧市街には中世の歴史が今も静かに息づいている。
その落差が、この街の面白さなのだと思う。

リマト川の両側に広がるアルトシュタットには、古い教会、石畳の道、歴史ある建物が残っている。
昼間でも魅力的だが、夜になると、その風情はさらに深まる。
街灯が石畳を照らし、通りの静けさが建物の古さをいっそう際立たせる。
現代の都市でありながら、どこか中世の時間がまだ流れている。
その二つが、夜の旧市街の中で自然に重なっていた。

チューリッヒの冬の夜は冷たい。
けれど、その冷たさがあるからこそ、街の灯りはあたたかく見えるのだと思う。
旧市街を歩きながら、僕は何度も足を止めた。
華やかさよりも、静けさの方が先に心に残る夜だった。

また別の街でも、こんなふうに夜の散歩をしてみたい。

Photo and Writing by Hasegawa, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

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