川端康成『古都』の舞台を歩く 京都の四季と嵐山をめぐる文学旅

『古都』の物語と、京都という舞台

主人公の千重子は、室町通の呉服問屋に育った娘です。
着物や帯が自然に物語の中へ入り込み、京都の町家文化や呉服文化が背景として立ち上がってきます。
ここでも京都は単なる舞台装置ではなく、人物の生き方そのものに深く結びついています。

千重子は、捨て子としての生い立ちを持ちながらも、育ての親に大切に育てられます。
やがて、自分にそっくりな苗子と出会い、双子の姉妹としての物語が動き出していく。
『古都』は、京都の四季を描く小説であると同時に、美しい娘たちのドラマでもあります。

物語の中で印象に残るのは、北山杉の村や嵐山の場面です。
観光都市としての京都ではなく、山間や木立の静けさの中にある京都が見えてくる。
それは賑やかな名所を巡るだけでは得られない京都の表情です。

『古都』にも通じる、京都の象徴的な風景。清水寺。Photo by HASEGAWA, Koichi

僕自身、嵐山へ行くと、賑やかな渡月橋周辺ももちろん魅力的だと思いますが、
その少し奥に入った静かな場所に、より京都らしさを感じることがあります。
『古都』に描かれる京都も、まさにそういう「少し奥の京都」なのだと思います。

『古都』を読んだあと、京都へ行こう

この小説を読むと、京都へ行くなら「どこへ行くか」だけでなく、
「どの季節に行くか」「どんなテーマで歩くか」を考えたくなります。

京都は何度訪れても尽きない街ですが、
テーマを決めると旅の輪郭がぐっとはっきりします。
たとえば仏像を巡る旅、夜のライトアップを追う旅、京都の味をたどる旅。
『古都』をきっかけにするなら、そこにさらに「季節を読む旅」という視点が加わるでしょう。

春に花を追うのか。
夏の祭を目当てにするのか。
秋の色に浸るのか。
冬の静けさを味わうのか。
『古都』は、そんな旅の入口として理想的な作品です。

嵐山を静かに歩く散歩コース

『古都』の余韻を持ったまま京都を歩くなら、嵐山はやはり魅力的な場所です。
僕が好きなのは、渡月橋を渡って賑やかな側へ向かうより、桂川沿いをそのまま上がっていく散歩コースです。

山を見ながら川沿いをゆっくり歩くと、京都の空気が少しずつ深くなっていきます。
せせらぎの音を聞きながら進むこの道は、観光地の京都というより、
自然と文化が近い距離で重なり合う京都を感じさせてくれます。

秋の嵐山を散策する。Photo by HASEGAWA, Koichi

途中には松籟庵があり、嵯峨懐石を楽しむこともできます。
紅葉の時期には特に雰囲気がよく、食事と景色の両方を味わいたくなる場所です。

その先にある大河内山荘庭園もおすすめです。
俳優・大河内傳次郎が長い年月をかけて作り上げた庭園で、
嵐山や比叡山の眺めも美しく、京都の庭園文化を静かに体感できます。

茶店でお茶と茶菓子をいただく時間も、京都らしい余白になる。Photo by HASEGAWA, Koichi

庭園を出たあとは、竹林を歩くのもいいでしょう。
このあたりは観光客も増えましたが、それでも少し時間帯を選べば、京都らしい静けさを感じられる瞬間があります。
賑わいの京都と、静かな京都。その両方があるのが嵐山の面白さです。

『古都』を読んだあとに京都を歩くと、
ただ名所を巡るだけではなく、小説の中で読んだ空気を現地で探すような旅になります。
四季の気配、木々の色、川の流れ、人の装い。
そうしたものを自分の目で確かめながら歩く京都は、きっと少し違って見えるはずです。

Photo and Writing by HASEGAWA, Koichi

筆者について

長谷川浩一|美術史家・講師・執筆

旅先で出会った街角の光、夜の気配、建築や風景に残る時間の層を、
写真と言葉で記録しています。
東京では西洋美術史講座 Edogawa Art Salon, Tokyo を開き、
noteでも美術や旅にまつわる文章を書いています。

シェアよろしくお願いします!

2件のコメント

私も、京都は大好きな所です。
川端康成の、古都の本に、興味を持ちました。    紅葉の、写真があまりに素敵なので、感動しました。希望としては、1年に、一度は旅行したい場所ですね。又素敵な所を。 紹介して下さい。待つてます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です