アテネで食べたギリシャ料理
ギリシャの旅で、今でもよく思い出すものがある。
青い空、白い建物、アクロポリスの丘。
もちろん、それらも忘れがたい。
でも、同じくらい強く記憶に残っているのが、ギリシャ料理だ。
旅先で食べたものは、あとになって不思議なくらい鮮やかに思い出される。
その土地の光や空気、歩いた道、夜の気配まで、一皿の料理と一緒によみがえってくる。
僕にとってギリシャ料理は、まさにそういう味だった。
正直に言えば、ギリシャへ行く前、僕はギリシャ料理のことをほとんど知らなかった。
ムサカという名前も、スブラキという料理も、きちんと知っていたわけではない。
けれどアテネで食べてみると、これがとてもおいしい。
しかも、日本人の口にもかなり合うと思う。
野菜、オリーブオイル、ヨーグルト、肉、ハーブ。
濃厚だけれど重すぎず、どこか素朴で、身体にすっと入ってくる感じがある。
ギリシャの旅は、遺跡や美術を見る旅でもある。
けれど、夜にタベルナで食事をしている時間もまた、旅の大事な一部だった。
地中海料理としてのギリシャ料理
ギリシャ料理は、地中海料理のひとつである。
地中海といえば、西にはスペイン、フランス、イタリア。
東へ行けば、ギリシャ、トルコ、中東へとつながっていく。
その広い海の周辺で育まれた料理には、どこか共通した明るさがある。
オリーブオイル。
トマト。
ナス。
ズッキーニ。
ヨーグルト。
ハーブ。
羊肉。
魚介。
ギリシャ料理にも、そうした地中海の食材がたっぷり使われている。
そして、ギリシャの立地や歴史を考えると、トルコ料理やレバノン料理に近い要素があるのも面白い。
料理は、国境できれいに分かれるものではない。
人が移動し、交易があり、文化が混じり合う中で、味もまた少しずつ変化していく。
ギリシャ料理を食べていると、地中海という大きな文化圏の中にいることを感じる。
ただ難しいことを考えなくても、単純においしい。
これがいちばん大事かもしれない。
オリーブのある食卓
ギリシャ料理に欠かせないものといえば、やはりオリーブである。
ギリシャでは、オリーブがとても身近な存在だ。
そのまま食べてもおいしいし、オリーブオイルとして料理にも使われる。
サラダにかけても、パンにつけても、肉や魚に合わせてもいい。
オリーブオイルの香りがあるだけで、料理が一気に地中海らしくなる。
太陽の光をたっぷり浴びた土地の味という感じがする。
ギリシャ神話にも、オリーブにまつわる話がある。
女神アテナと海の神ポセイドンが、ある土地の守護者の座をめぐって争ったとき、ポセイドンは海水を、アテナはオリーブの木を人々に与えたという。
人々が選んだのは、暮らしに役立つオリーブの木だった。
こうして、その町はアテナの名を取り、アテネになったと伝えられている。
神話の中にまでオリーブが出てくるのだから、ギリシャの人々にとって、それがどれほど大切なものだったかがわかる。
旅先の食卓に置かれたオリーブをつまみながら、そんな話を思い出すのも楽しい。
食べ物には、土地の記憶がしみ込んでいる。
スブラキの幸福
ギリシャで好きになった料理のひとつが、スブラキである。
スブラキは、簡単に言えばギリシャ風の串焼きだ。
肉を串に刺して焼いた料理で、店によってはパンと一緒に出てきたり、野菜やソースと合わせて食べたりする。
魚介の串焼きもスブラキと呼ばれることがあるらしい。
難しい料理ではない。
むしろ、とても素朴な料理だ。
でも、それがいい。
炭火で焼かれた肉の香ばしさ。
ハーブの香り。
少し焦げたところのうまさ。
そこに冷たいビールがあれば、もう十分に幸せである。
僕がスブラキを好きになったのは、アテネで国立考古学博物館へ向かう途中だった。
オモニア広場のあたりで、スブラキを食べた。
観光の合間にふらっと入った店だったと思う。
そのとき食べたスブラキが、とてもおいしかった。
ギリシャ版の焼き鳥、と言ってしまうと少し雑かもしれない。
でも、日本人にはそのくらいの距離感で考えると親しみやすいと思う。
肉に添えられるソースも印象に残っている。
ギリシャ料理では、ヨーグルトを使ったソースがよく出てくる。
きゅうり、にんにく、オリーブオイル、レモンなどが入った、さっぱりした味。
肉の脂を軽くしてくれて、これがまたよく合う。
昼に食べてもいい。
夜に食べてもいい。
歩き疲れたあとに食べるスブラキは、旅の身体にしみる。
ムサカという出会い
そして、ギリシャ料理で忘れられないのがムサカである。
ムサカは、ナス、ひき肉、ポテトなどを重ね、トマトベースのソースやベシャメルソースを合わせて焼いた料理だ。
ざっくり言えば、ギリシャ風のラザニアやグラタンに近い。
ラザニアではパスタを使うところを、ムサカではナスやポテトが受け止める。
そこに肉のうまみとソースの濃厚さが重なる。
これが本当においしい。
僕がはじめてムサカを食べたのは、アテネのプラカ地区にあるタベルナだった。
タベルナとは、ギリシャの大衆食堂のような場所である。
フランスで言えばビストロに近いだろうか。
気取らず入れて、地元の料理をゆっくり楽しめる。
プラカの夜、外の席に座って、ムサカを食べた。
料理が運ばれてきたときの香りを、今でも少し覚えている。
熱々で、ソースがとろりとしていて、ナスがやわらかく、肉の味がしっかりしている。
それまで知らなかった料理なのに、ひと口食べるとすぐに好きになった。
旅先でこういう出会いがあると、本当にうれしい。
僕はそのあと、二日続けて夜にムサカを食べに行った。
同じ料理を続けて食べるなんて、少しもったいない気もする。
でも、旅ではそういうことがある。
気に入ったものは、もう一度食べたくなる。
アテネで食べたムサカは、その後もずっと記憶に残った。
イギリスに戻ってからも、スーパーの冷蔵惣菜コーナーでムサカを見つけると、つい買ってしまった。
Sainsbury’sやWaitroseでムサカを見るたび、アテネの夜を思い出した。
料理は、旅の記憶を保存してくれる。
写真とは別の仕方で、味がその時の空気を閉じ込めている。



ギリシャ料理、馴染みがないけれど、ぜひ食べてみたいですね。
都内のレストランなら行けるので、予約してみようかな!
特にムサカはギリシャ版のラザーニアみたいでとっても美味しいでーす!
ぜひレストランでも食べてみてください!